コラム

若い世田谷にも押し寄せる高齢化の波

2019年03月13日(水)16時30分

◆区内4地区は超高齢社会

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世田谷区松原


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世田谷区松原

明大前の先の下高井戸や桜上水といった私鉄沿線の住宅街には、都民の中にまだ田舎への差別感覚が満ち溢れていた時代の個人商店や住宅がまだまだ残っている。でも、その多くは往年の輝きからすればかなり色褪せてきている。まるで、昭和〜平成世代の衰退と重なるように。

かつての世田谷は、上京して成功した若者と現役世代が居を構える上級なエリアのイメージが強かった。当時からヒネクレていた僕から言わせれば、都会に憧れてやってきて、都会人を演じている田舎者の集まりなのだが。今もその側面は強いのだろうが、今回改めて歩いてみると、そんな若い町にも少子高齢化の波が目に見える形で押し寄せているように感じた。地方都市や田舎町よりはまだ通行人の平均年齢は若そうなのだが、天気の良い土曜日の日中にしては、老人の姿が目立っていた。

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世田谷区赤堤

気になって調べてみると、世田谷区のHPに掲載されているレポートに、次の記述があった。「世田谷区では現在でも人口が増加傾向にあり、この主な要因は世田谷区への転入者が世田谷区からの転出者を上回る状況が続いていることの影響が大きい。さらに区への転入者の特徴としては、比較的若い世代の方が多いため、高齢化率の現況は18%と全国との比較では低い値となっている」(超高齢社会--元気高齢者が活躍できる地域社会に向けてーより)

やはり僕の思い過ごしだったか。ただし、これには続きがあった。「しかし、区内27箇所の出張所・まちづくりセンター別に高齢化率をみると、4箇所で超高齢社会と呼ばれる水準になっており、団塊世代の高齢化の進展により、今後は高齢者の数も率も高まっていくものと思われる」という。つまり、世田谷区でも、エリア別に見れば高齢化が顕在化しているのだ。

◆現役世代の都心志向

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世田谷区赤堤

レポートで「超高齢社会」になっているとされる区内4地区とは、奥沢、九品仏、祖師谷、成城である。成城と言えば超高級住宅地で、他の3地区も昭和の時代からのいわゆる「閑静な住宅街」だ。これから歩くであろう多摩ニュータウンの聖蹟桜ヶ丘といったまだ新しいイメージのある町でも、高齢化が進んでいると聞く。現代の富裕層は、今回の旅全体のスタート地点となった湾岸の晴海に建設中の五輪選手村(五輪後に一般に分譲される)のような、都心や駅前のタワーマンション志向が強いとされる。郊外高級住宅地の衰退とタワーマンションの増殖は、変革の時代の写し鏡だと言えよう。

旅の同行者のヤマダ君は、世田谷の高齢化地区に挙がっている九品仏(尾山台)の出身だ。生家は最寄り駅が九品仏、住所は尾山台のお屋敷街にあって、僕も一時期自転車で行ける距離に住んでいたので、よく遊びに行った。失礼ながら周囲の豪邸と比べると場違いな、『ドラえもん』ののび太の家をもっと古くしたような、昭和の木造住宅だった。

今、その家は取り壊され、賃貸アパートになっている。お母さんは亡くなり、お父さんは下町の特別養護老人ホームへ移り、ヤマダ君本人は都心の高層マンションに住んでいる。まだ少数派だという「世田谷区からの転出組」なわけだ。まさに昭和と平成に栄華を極めた世田谷の一軒家から、次の時代に輝く都心のマンションへの華麗なる転出と言えるかもしれない。ポスト平成の新東京一極集中時代には、環七の外から都心へ向かうヤマダ君のようなプチ移動も増えていくことだろう。

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

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