コラム

ファーウェイ問題の深淵:サイバースペースで前方展開する米国

2019年01月16日(水)15時40分

ファーウェイ事件の直後に来日した米国国家安全保障局(NSA)の長官も務めたマイク・マッコーネル提督に、「ファーウェイの問題は、米国が同じことができるから中国もできるに違いないという見立てに基づいているのではないですか」と聞いた。というのも、2013年にエドワード・スノーデンが暴露した機密情報の中で、NSAが配送途中の製品を抜き取り、密かに開封して部品を埋め込んでいることを示唆する情報があったからである。NSAはスノーデンの暴露情報全体が本物であるかどうかを認めておらず、この工作活動が事実かどうかも確認されていない。

私の質問に対しマッコーネル提督は直接答えなかった。しかし、「チャンスがあれば99%やるのが当たり前だ。やらないほうがおかしい。米国でも中国でも、インテリジェンス活動の対象が決まっていて、そこから情報をとる必要があるならば、可能なことは何でもやるはずだ」というのが彼の答えだった。

ただし、米国と中国には違いがあるという。米国のターゲットは安全保障ないし外交上の必要に応じて決められる。あらゆる製品に事前に不正品を組み込み、経済目的でデータを窃取したり、システムを不正に操作したりすることはないというのである。

日本も逃れられない

日本ではハードウェアにこうした細工が行われていたという事例は発覚していない。しかし、防衛省に納入されていたコンピュータのプログラムの下請け事業者に北朝鮮の関係者が経営する企業が関わっていたという事例が発覚し、防衛省が入札基準を厳格化するという報道がされたことがある(『読売新聞』2015年10月3日)。この下請け企業の経営者は何度も北朝鮮に渡航し、北朝鮮政府から勲章を得ていたらしい。

日本企業もサプライチェーン・リスクから逃れることは難しい。ファーウェイの孟晩舟CFO逮捕の後、明確な証拠もないのに日本の通信各社がファーウェイ排除の方針を打ち出したことを不審に思う声もある。しかし、各社は数年にわたってこうしたリスクの可能性に接してきており、彼らにとっては突然の話ではない。そして、米国での通信事業の経験がある事業者は、通信と安全保障は米国で密接な関係を持っていることを、身をもって知っており、そこには抗う余地がないことを知っている。だからこそ素早い決断が行われたとみるべきだろう。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

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