コラム

AIはだませる?──サイバーセキュリティにAIを使う期待と不安

2018年07月02日(月)16時30分

サイバーセキュリティとAI

サイバーセキュリティにAIを使うというアイデアはすでにいろいろなところで構想され、導入されている。AIは膨大なデータの中から異常値(アノマリー)を探すのが得意だ。これは防衛に使える。もう少し高度になれば、コンピュータ・ウイルスやマルウェアを自動進化させるAIも出てくるだろう(もう出て来ているかもしれない)。つまり攻撃への応用である。フェイクニュースの生成とターゲティングにも使われるだろう。

人手をなるべく介さないで自動化するのがAI導入のメリットである。特に人口減少が見込まれる日本ではそれに期待する声が大きい。

しかし、軍事・安全保障への応用は、かなり慎重な配慮を要する。冷戦時代には「エスカレーション・ラダー(深刻化の梯子)」という考え方があった。国家間の意見の対立から全面戦争に至るまでの間にはたくさんの梯子の段があり、低レベルから高レベルへエスカレーションしないようにするのが米ソの指導者に求められていた。ソ連が新しい早期警戒システムを入れたことで、警戒態勢から一気に全面核戦争にエスカレートする恐れがあった。しかし、ペトロフ中佐がそれを止めた。

サイバーセキュリティにおけるエスカレーション・ラダーは、核戦争より短いかもしれない。自動化されたシステムが危機を一気にエスカレートさせるかもしれない。第三者同士を戦わせようとする悪者ハッカーの介入が戦争を引き起こすかもしれない。

新しい技術が出てくれば、こうした懸念はつきものである。自動運転の車が事故を起こすと議論されているのと同じである。しかし、交通事故と戦争では被害規模が異なる。

ニュートンがいう狂気を繰り返してきた人間の判断を否定しAIに任せるか、あるいは、人間の英知を信じてAIに人間の判断の余地を残すか。まだ結論を出すには早いだろう。

#この原稿前半のエピソードは、以下の2冊の本で紹介されている。
Fred, Kaplan, Dark Territory: The Secret History of Cyber War, Simon & Schuster, 2017.
Paul Scharre, Army of None: Autonomous Weapons and the Future of War, W. W. Norton & Co., 2018.

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

歳出最大122.3兆円で最終調整、新規国債は29.

ワールド

トランプ政権、元欧州委員ら5人のビザ発給禁止 「検

ワールド

米連邦地裁、H─1Bビザ巡る商工会議所の訴え退ける

ワールド

米東部の高齢者施設で爆発、2人死亡 ガス漏れか
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story