コラム

サイバー攻撃を受け、被害が出ることを前提に考える「レジリエンス」が重要だ

2018年05月11日(金)18時30分

頻発する海底ケーブル切断

実際、海底ケーブルは我々が考えている以上によく切れている。ベトナム沖では頻発しているし、2008年から何度も海底ケーブルが切れていたエジプト沖では、2013年に3人のダイバーが現行犯で捕まっている

ケーブル切断の多くは漁船の底引き網や船舶の錨によって引き起こされている。そうした切断が起きるとケーブル修理船が港を飛び出し、切れたケーブルを海底から引き上げ、つなぎ直すことになる。2011年の東日本大震災をもたらした地震は海底ケーブルも切断した。東日本につながる多くのケーブルが失われたことで、米国やアジアとつながる海底ケーブルのトラフィックは西日本に迂回させられた。

tuchiyaPHOTO3.JPG

2017年に就航したNTTワールドエンジニアリングマリンの新しいケーブル船「きずな」

切れたらすぐに直せば良いというのがレジリエンスの発想だが、しかし、海外との金融取引など高速な通信を要するサービスを使っている場合には、わずかなケーブルの損傷が影響を与える可能性がある。近年の金融の高速取引のためにわざわざ最短距離のケーブルを引くことも行われている。大容量の海底ケーブルが複数箇所で同時に切断されれば、金融取引に影響が出るだろう。あるいは、オリンピック・パラリンピックの最中であれば外国の動画配信に影響が及ぶかもしれない。

準備が必要なレジリエンス

レジリエンスは準備なくして成り立たない。何が起きる可能性があるか、起きたらどうするかを想定しておくことで素早いレジリエンスが可能になる。想定外のことが起きたときには素早い判断ができない。普段からの演習も重要になる。

CIPフォーラム終了後、参加者のひとりから質問を受けた。「日本では災害後の72時間は自分で生き延びることになっていると聞いたことがあるが、それは法律で決まっているのか」という。私は「法律で決まっているわけではないが、経験則として最初の72時間が重要で、救助が来るまでの間、自分でサバイブしなくてはならないということを多くの日本人が知っていると思う」と答えた。普段の心構えの有無が違いを生む。

複数の海底ケーブルを同時切断するようなテロが起きるとすれば、それだけで済むとは思えない。おそらくは波状的に多様なテロ行為が仕掛けられるだろう。社会的な混乱が起きているときに通信手段が失われることは非常に危険である。ネットがつながることが当たり前になっている日本社会でそれが起きたときにどうなるか。

2011年の東日本大震災はたくさんの教訓を残した。そして、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの前にも、2019年6月に大阪でG20サミット、2019年9月にラグビー・ワールドカップとメガイベントが続く。メガイベントのセキュリティ対策は各国共通の課題になっている。

マジックワード「レジリエンス」は唱えているだけでは達成できない。演習やシミュレーションが不可欠である。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃

ワールド

シリアで米兵ら3人死亡、ISの攻撃か トランプ氏が

ワールド

タイ首相、カンボジアとの戦闘継続を表明

ワールド

ベラルーシ、平和賞受賞者や邦人ら123人釈放 米が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 10
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story