コラム

サイバー攻撃を受け、被害が出ることを前提に考える「レジリエンス」が重要だ

2018年05月11日(金)18時30分

研究者だけでなく、政治家や実務担当者の参加も多いため、それぞれの理念・哲学を長々と話したり、経験談を披露したりする人も多かった。その中で多くの人が言及したのが「レジリエンス」である。英辞郎第9版では、レジリエンスは、「〔病気・不幸・困難などからの〕回復力、立ち直る力、復活力。〔変形された物が元の形に戻る〕復元力、弾力(性)」とされている。

サイバーセキュリティの世界ではカタカナで「レジリエンス」と書くことが多く、サイバー攻撃の被害を受けても素早く復旧することで業務継続性等に影響を及ぼさないようにすることを指す。

サイバー攻撃をそもそも全く受けないということは期待できない。そして、攻撃を受けても100%被害が出ないということもきわめて難しい。当然攻撃を受け、当然被害が出るが、素早く復旧して被害を最小限にするというのがレジリエンスの考え方である。

CIPフォーラムの参加者たちが言うほど実態は簡単ではない。DDoS(分散型サービス拒否)攻撃を受けたから通信事業者に頼んで回線を増強するぐらいならできるだろう。しかし、このフォーラムで議論しているような重要インフラに対するサイバー攻撃やテロ攻撃が行われ、物理的な被害が出てしまった場合には、簡単に復旧はできないだろう。

私がこのフォーラムで話したのは海底ケーブルの保護である。幸いというか、ルーマニア自体は隣国ブルガリアとの間で黒海を介してつながる海底ケーブルを1本持っているだけだ。しかし、日本のような島国は数多くの海底ケーブルに依存しているし、インターネットの中心になっている米国も世界とつながるには太平洋、大西洋を横断する海底ケーブルを必要としている。

今年3月には、アフリカ大陸西岸のモーリタニアで海底ケーブルが切断され、2日間にわたってインターネットに接続できなくなった。これが事故なのか事件なのか、いまだにはっきりしないが、一番被害が大きかったモーリタニアだけでなく、少なくとも周辺のシエラ・レオネ、リベリア、ギニアビサウ、ガンビアにも影響が出た。

海底ケーブルが1本しかつながっていなかったモーリタニアは48時間にわたって接続を失った。複数の海底ケーブルを持っていた国は、通信スピードが遅くなったとしてもつなぐことはできた。レジリエンスという点では、古くからのインターネットの思想にある通り、リダンダンシー(冗長性)を持っておくことが重要ということを示している。

日本の場合は全国に15ヵ所程度の海底ケーブルの陸揚局がある。一つの陸揚局に複数のケーブルが入っている場合があるから、新旧合わせてかなりの数の海底ケーブルを日本は保有している。モーリタニアのような全国が数日にわたって通信不能ということは考えにくい。どこかで海底ケーブルが切れればトラフィックを迂回させれば良い。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story