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ハックされた世界秩序とサイバー・ドラゴンの台頭
チェンにも直接話を聞くと、中国には三つのサイバー作戦を行うグループがあるという。第一に、人民解放軍である。第二に、非軍事的な政府組織で、国家安全部、公安部、情報産業部(中国における「部」は日本の「省」にあたる)、国家インターネット情報弁公室(共産党のネットワーク安全・情報化領導小組弁公室と表裏一体の組織)などである。第三に、サイバー民兵で、市民や企業など多様な主体によって形成されている。
このうち、第一の人民解放軍からのサイバー攻撃は、2015年9月の米中首脳会談後、やはり減少したという。61398部隊も消滅した。しかし、全体のサイバーエスピオナージのレベルは減っていないともいう。人民解放軍の割合は減ったが、大きな文脈は変化しておらず、そもそも当初は人民解放軍のレベルが低かったから露見したに過ぎない。61398部隊の攻撃パターンを見ると、ランチタイムをとり、夕方6時には終了した。マンディアントの報告書や米中首脳会談で証拠を突きつけられ、サイバー攻撃が高度になったから、一見すると減ったように見えるだけなのだという。
トランプ政権の考え方
チェンの所属するヘリテージ財団は、トランプ政権に近いことで知られている。同財団から多くの人が政治任命で政権入りしている。しかし、チェンは、政治経験の少ないトランプ大統領がどのように問題に反応するのかを見極めるのは依然として難しいともいう。トランプ大統領は不動産や金融の世界で生きてきており、何か問題があったときに外交や軍による選択肢を考えるのではなく、経済、特に金融のアプローチを好む傾向がある。そして、交渉学においていわれる「BATNA(Best Alternative to Negotiated Agreement)」、つまり、最も望ましい代替案が何かを探そうとする。外交官にとって最善の策は条約を作ること、その次に会話を続けること、最後に会話を止めることという順になる。しかし、ビジネスの世界ではいきなり会話を止めることもある。
選挙前のトランプ候補はアジアから距離を置くことを考えていた。オバマ政権がアジアを重視したとは反対の動きを指向していた。ところが、当選後すぐに日本の安倍晋三首相と会談し、日本に対する考えを変えさせたのではないかとチェンは指摘する。そこで日米安全保障条約が重要だと理解し、日本への見方が変化した。韓国に対しては相変わらず批判的だが、日本に対する批判はなくなった。日本を重要なパートナーとして見ているといえるだろう。
サイバー・ドラゴンたちにハックされた世界秩序
米国のサイバーセキュリティ研究者たちの話を聞くと、以下のようにまとめられるだろう。第一に、ロシアの影響を懸念する声が強くなっている、しかし、第二に、中国も依然として懸念材料であり、油断はできない。その手法は洗練化されてきている。第三に、トランプ政権は日本をパートナーとして期待している。
「ハック」とは本来、うまくやる、巧妙に改造するといった意味もあり、必ずしも犯罪行為を意味する言葉ではない。しかし、世界秩序がサイバー・ドラゴンその他にハックされているというとき、肯定的な意味でとらえるのは難しいだろう。世界秩序は一時的にせよ、あるいは永続的にせよ、ハックされて変わってしまいつつある。おそらくインターネットやサイバー技術の影響を無力化する技術の登場はまだ先だろうから、この技術と共存する世界秩序を構想・実現していくことになる。
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