コラム

クロスドメイン(領域横断)攻撃は、戦闘を第二次世界大戦時に立ち戻らせる

2017年08月18日(金)19時30分

サイバー戦争下では、再び、天測航法が行われる? Jared King-U.S. Navy

<サイバー・電子技術に頼った指揮命令システムや測位・探知システムが失われると、急速に戦闘は第二次世界大戦のレベルに戻っていくかもしれない>

「今夜でも戦う用意ができている(ready to fight tonight)」は、米国太平洋軍のハリー・ハリス司令官がよく使うフレーズである。北朝鮮をめぐる米朝間の緊張の高まりは、東アジアでの戦闘を現実味のあるものにしている。

しかし、もし戦闘が起きるとすれば、それは新しいものであると同時に、古いものに立ち戻る可能性もある。

ハリス司令官はかねてからクロスドメイン攻撃の可能性を指摘している。従来の陸、海、空という三つの作戦領域に加えて、第四の作戦領域が宇宙、第五の作戦領域がサイバースペースであることはすでに広く知られている。それに加えて未来の戦争はクロスドメイン(領域横断)になる。つまり、陸軍対陸軍、海軍対海軍、空軍対空軍という戦いはもはや成り立たない。軍艦同士の戦いは第二次世界大戦以来70年以上にわたって行われていないという指摘もある。

陸軍の会議で講演したハリス司令官は、「例えば、陸軍が、船を沈め、人工衛星を無力化し、ミサイルを打ち落とし、部隊を指揮統制する能力をハックしたり、妨害したりできなければならない」と言っている。つまり、陸軍の敵は陸軍ではなく、敵の海軍であり、空軍であり、宇宙軍であり、サイバー軍なのである。軍種を超えた戦闘が未来の戦争になる。

そして、「今や、世界の出来事は、特にここインド・アジア太平洋において、クロスドメイン能力を開発することが喫緊の課題であることを強調していると思う」とも指摘している。

すでに始まっているかもしれないサイバー戦争

2017年3月、米国のニューヨーク・タイムズ紙は、北朝鮮のミサイル・システムに米国がサイバー攻撃を仕掛けていると報道した。米国政府は認めていないが、バラク・オバマ政権からドナルド・トランプ政権にサイバー作戦が受け継がれた可能性がある。実際、北朝鮮のミサイル実験が失敗したことが何度かあり、米国のサイバー作戦が功を奏したのではないかとも見られている。

しかし、それが報道されたということは、もはやそれが終わったか、意味がなくなったということだろう。現在進行形の作戦であり、米国にとって重要なものであれば、政権からリークが行われるとは考えにくく、リークがあっても新聞社は報道に慎重になるだろう。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

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