コラム

暴露が続くアメリカ政治――ロシアが仕掛ける「情報攻撃」

2017年01月14日(土)11時00分

トランプ情報の暴露と情報攻撃

 これに続いたのがトランプ次期大統領についてのスキャンダルに関する暴露である。ただし、これはまだ真偽が確かめられていない。1月初めに米国から来た人物は、「2013年にトランプがモスクワを訪れたとき、ホテルで不適切な動画を撮影され、ロシア政府が握っているという噂がワシントンで出回っている」と話していた。まもなく同旨の報道が米国で行われるようになり、それを裏付けるとされる文書が出回っていることが分かった。そしてその35ページの文書はネット上で全文暴露されてしまった。

 今週11日、当選後初めて、トランプ次期大統領は記者会見を開き、文書の内容を全面否定する。文書について報道したメディアには質問を許さず、報道しなかったメディアを賞賛するという露骨な差別待遇を行った。

【参考記事】トランプ初会見は大荒れ、不安だらけの新政権

 こうした暴露合戦は、すでに数年前から始まっている情報戦争の一環である。そもそもプーチン大統領がクリントン候補を嫌い、DNCからデータを暴露するという大胆な行為に出たのも、かねてからクリントン候補がプーチン大統領を批判していたからである。例えば、クリントン候補の著書『困難な選択』(日本経済新聞社)の上巻には以下のような記述がある。



"彼が激しやすく、強権的であり、批判に憤慨することが明らかとなり、やがては自由な報道機関とNGOの反対意見や議論を押さえ込むにいたった。"

"新ロシアの目にあまるひどい動きに、報道に対する攻撃がある。新聞、テレビ局、そしてブロガーが、ロシア政府の規制に従うよう強い圧力を受けた。二〇〇〇年以降、ロシアはジャーナリストであることが世界で四番目に危険な国となった。イラクほどではないが、ソマリアやパキスタンよりもひどい。"

 こうしたロシアとプーチンに対する批判は、プーチンにとっては、「情報攻撃」だと映っている。「サイバー攻撃」という場合、我々がイメージするのはシステムやネットワークに対する攻撃だというイメージがある。しかし、ロシアがいつも使うのは「情報攻撃」という言葉であり、それはコンテンツを含んでいる。ロシア政治に文脈においては、政府批判もまた情報攻撃であり、クリントンは長年にわたってプーチンに対する情報攻撃を行ってきたとプーチンは考えてきた。それに対する「反撃」が大統領選挙への介入だったのだろう。

 ロシアから見ると、パナマ文書でプーチンの側近の不正蓄財が暴露されたり、ロシアのアスリートたちのドーピングが暴露されてリオ・オリンピック出場が阻まれたりしたこともまた、米国と西側各国が仕掛けた情報戦争だと考えられている。

 それならばと、米国が堅持する自由なメディア・プラットフォームの上で米国を批判し、ロシアを擁護するメッセージをロシアは流し始めた。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、19年の死亡事故で和解 運転支援作動中に

ビジネス

午前の日経平均は続伸、朝安後に切り返す 半導体株し

ビジネス

BNPパリバ、業績予想期間を28年に延長 収益回復

ワールド

スペイン政府、今年の経済成長率予測を2.6%から2
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story