コラム

「日本人に見えない」多様な五輪選手の顔ぶれに、日本の明るい未来が見えた

2021年08月18日(水)19時57分
石野シャハラン
東京五輪の柔道

YOHEI OSADA/AFLO SPORT

<イラン人の筆者が来日した20年前と比べて、日本は「日本人に見える日本人」だけの国ではなくなった>

東京2020オリンピック・パラリンピックの前半戦、オリンピックが閉幕した。新型コロナウイルスの感染拡大という難しい状況でもひとまず開催できたのは、ひとえに現場で働く人やボランティアの努力のおかげだろう。まだパラリンピックが控えているが、頑張った方々をまずはたたえたい。

今大会で今までになく興味深かったのは、日本の選手たちの多彩な顔触れである。皆さんは、日本オリンピック委員会(JOC)のウェブサイトの選手名簿を見ただろうか?

そこには伝統的な日本人のイメージではない、片親が外国にルーツを持つ選手、あるいは両親共に外国出身という選手たちが多く載っている。街を歩いていてもテレビを見ていても、ミックスの人や、日本語ネイティブな外国人顔を見ることが最近とみに増えてきた。それでも今大会の日本選手たちの多様さは、その比ではない。

北米やヨーロッパの国々ほどではないが、韓国や中国の選手団には見られない多様さが、日本選手たちにはある。コロナ対策のまずさで日本は先進国の地位から脱落したという論調が目立ったが、人々の多様さという点では日本はやっと先進国になりつつあるのかもしれない。

私は2002年に日本に来るまで、イランで仕事をしつつ俳優を志して自主映画や短編映画に出演していた。当時はネットが気軽なものでなく、SNSで情報が世界中でシェアされる時代ではなかった。イランでの日本のイメージは、最先端の技術がある国際的な国、その首都・東京はニューヨークのような人種のるつぼ、というものだった。

今となっては笑うしかないが、そう誤解させるくらい、約20年前の20歳のイランの若者の周りには、自動車、電化製品、映画、アニメなど日本製のものがあふれていた。

自分は日本ではまともな俳優になれない

私は大学で勉強するため日本に来たのだが、当然その国際的な国=日本で俳優を続けられると考えていた。だが私は早々に現実を知る。留学生を除けば日本人しかいないし、日本語しか通じない。テレビには日本人しか出ておらず、たまに出演する外国人は道化やトリックスターにしか見えなかった。

日本は「日本人に見える日本人」だけの国であり、つまり私は日本ではまともな俳優にはなれないということだった。その事実は大きなショックだったはずだが、若い私はそれよりも日本語をマスターし、日本で生きる道を探ることに必死だった。大好きな日本から貪欲に学び、価値観を身に付け、日本社会に溶け込もうと努力してきた。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

みずほ証の10ー12月期、純利益は4.4倍 債券や

ビジネス

アングル:中銀デジタル通貨、トランプ氏禁止令で中国

ビジネス

日本製鉄、山陽特殊製鋼を完全子会社に 1株2750

ワールド

ノルウェーで欧州懐疑派政党が政権離脱、閣僚の半数近
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story