コラム

菅首相の会見、アドリブも鋭い質問も大歓迎な米仏の大統領とこんなに違う

2021年07月14日(水)19時12分
西村カリン
記者会見する菅義偉首相

BEHROUZ MEHRIーPOOLーREUTERS

<なぜか緊張感が強すぎ、事前準備のない質問には直接答えない菅首相は、本物の記者会見をしたことがない>

6月17日の夕方7時、数週間ぶりに首相官邸で菅義偉首相の記者会見に出席した。外国記者はあまり参加できないので、できると「ラッキー」と思ってしまう。なぜなら抽選で決まるから。そもそも記者の人数が制限されている上に、新型コロナウイルス感染症対策という理由でさらに人数削減になり、全部で29人しか参加できない。

そのうちなんと19人は記者クラブ(内閣記者会)所属の記者で、残りの10人は雑誌、フリー記者と外国マスコミの中から抽選で選ばれる。外国記者の場合は外務省が発行する「外国記者登録証」を持っていることが条件だが、該当者は500人以上いる。

また抽選に参加するためには毎回、案内がメールで来てから数時間以内に申し込まないといけない。当選か落選かは電話で知らせが来るが、抽選の様子は非公開。抽選に毎回参加はできるが、2回連続で当選はできない。落選した記者が次回は優先的に選ばれるからだ。

当選しても、記者クラブの幹事社の記者以外は、確実に質問できる保証はない。それでも6月17日の私は「めちゃくちゃラッキー」だった。質問ができたからだ。

一部の日本人からは失礼な記者と言われるかもしれないが、問題点を指摘しながら、こう聞かないといけないと私は判断した。

会見の経験を積んでいると思われるが

「総理は何度も『ワクチンを前提とせずに安心・安全な東京五輪が可能』と言いましたが、結局ワクチンなしには無理でした。でもワクチンがあっても100%の安全は確保できません。参加者の行動をGPSで管理するといっても、あくまでスマートフォンの位置情報で、実際の行動と異なります。結局、感染対策が不十分と思う専門家が多い。感染拡大や死者が出るリスクがあっても開催して大丈夫だと思う理由は何ですか。ノーと言えないことでしょうか。プライドでしょうか。または経済的理由でしょうか」

首相の答えにはがっかりした。「ノーでも、プライドでも、経済でもありません。日本においては、外国から来られた方への感染対策を講じることができるからです」

つまり、リスクをコントロールできると本人が思っているにすぎない。科学的根拠が乏しい。実のところ、いい答えが得られることは期待していなかった。約8年にわたって官房長官を務めた菅首相は記者会見の経験を積んでいると思われているが、記者が望むような本物の記者会見をしたことはないと言っても過言ではない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ中部にロシアミサイル攻撃、8人死亡 重要

ワールド

パキスタンで日本人乗った車に自爆攻撃、全員無事 警

ビジネス

英小売売上高、3月は前月比横ばい インフレ鈍化でも

ビジネス

日産、24年3月期業績予想を下方修正 中国低迷など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story