コラム

ドイツの夜間外出禁止令は、結局、クラブ・パーティの秘密化を助長する

2020年11月18日(水)17時00分

クラブへの資金提供

パンデミックに伴い、ドイツ政府や州により、クラブの存続のための5つの異なる資金提供プログラムが設定された。その中のクラブ文化支援プログラムは、連邦政府から8,000万ユーロ(約98億1,715万円)をクラブに提供している。しかし、これらの助成プログラムは実際にどのように機能しているのだろうか?

ドイツ印税徴収協会(GEMA)のプログラムは、クラブ会場の物理的な変更を支援するために設定されている。クラブをコロナの衛生基準に適応させ、改築工事をする場合、例えば、屋外に雨を避ける屋根を張り、バーを少し広くして、人々がお互いに近すぎないようにするなどは、このプログラムが助けになるかもしれない。

しかし、これらの資金提供プログラムは、合法的でコロナ対策に準拠したパーティーを運営するクラブのみが利用可能である。ベルリンのクラブ・パーティーを定義する集団接触を前提とするイベントには対応していない。これにより、定期的に性解放をテーマにしたパーティーなどは、完全にアンダーグラウンドになっている。

秘密化するクラブ・パーティ

ベルリンの快楽主義クラブ「キットカット(KitKat)」やいくつかのクラブの常連客の多くは、他の方法を見つけて、プライベートなパーティーを開いている。これらの秘密のパーティーは、WhatsAppやフェイスブックのプライベート・グループを通じて告知され、秘密の場所で開催されている。

パーティーの場所はSMSコードで表示される。これは、90年代に口コミや手書きのメモで秘密のパーティ会場を知らせた手法を彷彿とさせる。現代のSNSは、親密さと排他的な新しい感覚をもたらしている。

秘密のパーティーが排他的である理由のひとつは、警察が現れて1万ユーロの罰金を科すからだ。すべてのクラブは、秘密パーティのようなリスクを冒すことができないので、屋外にビアガーデンを併設するなどして、実際にはクラブの営業はしていない。秘密のパーティーの多くは、ベルリンの中心部から離れたブランデンブルクやケ―ペニックの田舎で開かれている。そこは隣人が文句を言わず、警察にも見つからない場所である。

違法なことをしているという罪悪感と、人々と一緒に集まることの恍惚感、大音量でテクノを聴き、踊り、それを組織する欲望とのパラドックスが、現在のベルリンのクラブ文化の内情である。リスクを冒してまで、秘密のパーティが開かれる理由こそ、クラブが社会の中で何を支えているかという解答となる。

収束しないパンデミックの中で、どれだけパーティーを開くことができるのか?それは間違いなくクラブを必要とする人々に重くのしかかっている。秘密のパーティーは水道もない廃墟のような建物で開かれており、衛生面の心配やマスクをつけないリスクとも向き合っている。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story