コラム

フェイクニュースは戦争を起こす?!

2017年01月30日(月)18時00分

LPETTET-iStock

<米大統領選期間中に大きな話題になったフェイクニュース(偽ニュース)。その後、影響は世界的に拡大中だ。なぜ拡がるのか、今後どうなるのか、フェイクニュースとは何かを考える...>

 2016年末のことだが、パキスタンの国防大臣が、「パキスタンがシリアに軍隊を送ればイスラエルはパキスタンを核攻撃する用意がある」というフェイクニュースを真に受け、イスラエルに対して報復措置をとる準備をするとツイートしたところ、イスラエル国防省が同じくツイッターで「それはフェイクだ、信じるな」と必死で止めたことが話題になった。(New York TimesHuffington PostJerusalem Post(イスラエル)、Pakistan Today(パキスタン)、毎日新聞

 この事件が興味深いのは、一つにはパキスタン国防大臣の意志やイスラエル国防省のコミュニケーションがツイッター上で行われたことである。通常、国家間のコミュニケーションはそれぞれの外交使節を通じて行われ、正式なメッセージのやり取りは時間がかかるものである。しかし、パキスタン側もカジュアルにツイッターで核戦争の可能性を示唆したり、事態を重く見たイスラエル側も一刻も早く意図を伝えるためにツイッターを使った。新たにアメリカ大統領となったトランプ氏も選挙戦中からツイッターを活用し、他国や企業を動かしてきたが、核戦争に関わることまで衆人環視の下でツイートされるというのは、伝統的な外交とは大きく異なっており、21世紀的な政治外交のあり方のモデルを示している。

 もう一つ興味深い点は、パキスタンの国防大臣ともあろう人がフェイクニュースを信じて反応したことである。パキスタンは既に核実験を成功させた核保有国であり、イスラエルも公的には認めていないが、核兵器を保有していると考えられている国である。しかし、このフェイクニュースでは、イスラエルが公に認めていない核兵器を脅しに使うと書かれており、よほどのことがなければイスラエルが公的な場で核兵器の使用を示唆することもない、という常識があれば嘘だと見抜けるはずであった。しかし、そうしたフェイクニュースがパキスタンの官僚機構や情報機関のフィルターを超えて国防大臣の目に留まったということ自体が大きな衝撃であった。

 今回は、核戦争まで引き起こしかねないフェイクニュースとは何かを考えてみたい。

デマ、プロパガンダ、フェイクニュース

 ニュース記事が事実に基づかないということは今に始まったことではない。日本でも戦時中の大本営発表ではありもしない戦果が大げさに語られ、全体主義国家ではうまくいかない政策もすべてがバラ色に見えるようなニュースで彩られる。現在でも北朝鮮中央テレビの放送やロシアのニュース記事を見れば容易にイメージできるだろう。こうした「プロパガンダ」に加え、いわゆる「デマ」も事実に基づかないニュースとして我々の目に触れることが多い。日本では福島原発事故の直後から様々なデマがまき散らされ、多くの人を不安に陥れたという経験もあり、それ以降も熊本地震などでも事実に基づかないツイートやブログ記事などがSNSを通じて拡散した。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が固体燃料エンジンの地上燃焼実験、金総書記が

ワールド

ウクライナ大統領がUAE・カタール訪問、防衛協力で

ワールド

全米で反トランプ集会 移民政策やイラン戦争に抗議 

ワールド

米国防総省、イランで数週間にわたる地上作戦を準備=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    カタール首相、偶然のカメラアングルのせいで「魔法…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story