トランプの「ガザ所有」発言は、口先の「挑発」にすぎない...だがその影響はあまりにも大きい
GAZA PLAN A STUPID IDEA
![ガザ所有構想を語ったトランプ大統領 ガザ所有構想を語ったトランプ大統領](https://f.img-newsweekjapan.jp/stories/assets_c/2025/02/newsweekjp20250214032138-1cb466a693df19e45a2e537df1ffe38100e4679b-thumb-720xauto-1516467.jpg)
ネタニヤフ(左)との記者会見でガザのリゾート化を語ったトランプ JOSHUA SUKOFFーMNSーSIPA USAーREUTERS
<トランプ米大統領による唐突な「ガザ所有」発言は中東に何をもたらすのか。緊迫状態のイスラエルとアラブ各国の関係悪化は必至>
アメリカがパレスチナ自治区ガザを掌握し、同地区のパレスチナ人住民はほかの場所へ再定住する──。
ドナルド・トランプ米大統領が2月4日、ワシントンを訪問したイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談後、共同記者会見で驚愕の構想を語った。アメリカがガザを「所有し、責任を持つ」と。
その現実味について問いただされると、トランプは「やるべきことを行い」、ガザを「中東のリビエラ」に開発すると答えた。「中東全体が誇りに思える場所になるだろう」
トランプの発言の後、マルコ・ルビオ米国務長官はX(旧ツイッター)への投稿でこう述べた。「アメリカは『ガザを再び美しい場所に』キャンペーンを率いる準備ができている。私たちが求めるのは、地域の恒久平和をあらゆる人のために実現することだ」。ルビオは翌日、ガザ住民の再定住とは、再建期間中に限った一時的なものという意味だと説明した。
イスラエルの右派の多くはトランプの「ガザ発言」を称賛している。彼らは長年、ガザからのパレスチナ人排除を支持してきた。一方、怒りの声はアラブ世界にとどまらず、各方面から上がっている。
国連のフランチェスカ・アルバネーゼ特別報告者(パレスチナ自治区の人権担当)は「強制退去執行の扇動」だと発言。エスニック・クレンジング(民族浄化)を支持していると指摘する政治家もいる。
ガザの「一掃」という意向を、トランプが初めて口にしたのは今回の共同記者会見の約1週間前だ。ガザのパレスチナ人を、エジプトとヨルダンが受け入れることを望むと、移動中の機内で記者団に発言した。
これを受けて、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、ヨルダン、エジプト各国外相は2月1日に共同声明を発表。「入植活動であれ、立ち退きや土地の併合、所有者による土地の明け渡しであれ、パレスチナ人の不可侵の権利の侵害」は拒絶すると明言した。
カギを握るサウジの強硬論
協調行動で有名とは言えない中東各国が一致した姿勢を示したこの声明が、トランプ政権に発しているメッセージは明らかだ。すなわち、パレスチナ問題の実現可能な解決策は「2国家解決」しかあり得ない。
トランプのガザ発言は、イスラエルと近隣アラブ諸国の亀裂を中東全体で深め、同地域でのアメリカの将来的役割に疑問を投げかけるだろう。
米政府のガザ掌握の試みはほぼ確実に軍事力を伴う(トランプは2月6日、米軍のガザ派遣は必要ないと、オンラインの投稿で主張したが)。そうなれば、1948年のイスラエル建国当時の「ナクバ(大災厄)」に匹敵する事態を招きかねない。現在のイスラエルにいたパレスチナ人70万人以上が土地を追われたナクバは、イスラエルとアラブ各国の数十年にわたる対立の着火点になった。
アラブ諸国にガザ住民の受け入れを求めるトランプの提案は、パレスチナ問題への感情を無視している。
エジプトは、社会経済的圧力の高まりとイスラム原理主義者の暴力への根強い懸念の中、ガザ住民の受け入れを長らく拒んできた。48年当時と67年の第3次中東戦争の際にパレスチナ難民を迎え入れたヨルダンは、これ以上の受け入れは望まないという姿勢を崩していない。
エジプトのバドル・アブデルアーティー外相は2月5日、パレスチナ自治政府のムハンマド・ムスタファ首相とエジプトの首都カイロで会談した。エジプト側の声明によれば、両者はアメリカによるガザ掌握を拒否することで合意したという。
エジプトとヨルダンはいずれもイスラエルと平和条約を結んでいるが、関係は友好的とは限らず、イスラエルのガザ攻撃で緊張が高まっている。今回のトランプ発言とイスラエル右派の反応は現状を悪化させるだけだ。
第1次トランプ政権の重要な外交的勝利は、アブラハム合意の仲介だった。2020年後半、UAEやバーレーン、モロッコなどが続々と発表したイスラエルとの国交正常化合意だ。これらの国は、イスラエルのガザ攻撃について沈黙を守る姿勢が目立つが、今回のトランプの発言がもたらす影響はまだ分からない。
一方で、サウジアラビアは第1次トランプ政権とジョー・バイデン前米大統領にとって、外交上の「高根の花」であり続けてきた。イスラム教の聖地メッカとメディナが位置するサウジアラビアは、アラブ・イスラム世界で重要な地位を占める国だ。
同国の事実上の指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子はこの数カ月間、イスラエルとの関係正常化に否定的な立場を強めている。そこから浮かび上がるのは、パレスチナ国家の樹立なしに、そうした合意は不可能だとの見解だ。サウジアラビア外務省は2月5日に発表した声明で、「パレスチナ人をその土地から追い出そうとする試みは、いかなるものも」拒否すると表明した。
トランプはネタニヤフとの共同記者会見で、サウジアラビアは「パレスチナ国家」を求めていないと示唆した。だが、その後に発表されたサウジアラビア当局の声明は真っ向から食い違う。ガザに対する見方、さらにはパレスチナの将来像をめぐって、サウジアラビア政府と米政府の間で広がる相違を指し示す出来事だ。
トランプのガザ発言は根本的に、政策実行だけでなく挑発を目的とする、おなじみの外交的大言壮語の最新例にすぎない。だが、中東問題は話が別だ。口先の挑発でさえも、既に緊迫状態のイスラエルとアラブ世界の関係に何らかの影響を与えることは避けられない。
Simon Mabon, Professor of International Relations, Lancaster University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.