スパイを国民のヒーローに...プーチンの巧妙な「心理作戦」の真相
GONZO INTELLIGENCE
いい例が、昨年12月にFBIが任意の事情聴取における虚偽供述の容疑で逮捕したニューヨーク在住でロシア国籍の女性ノマ・ザルビナだ。
彼女は米国内で活動する反プーチン派の集会に「専門家」として頻繁に顔を出し、ロシア連邦の解体とシベリア独立を求める「シベリア合衆国」を支持する発言をSNSで繰り返していたインフルエンサーだが、それは仮の姿で、実は数年前からロシアの連邦保安局(FSB)の指示で動いていたとされる。
あるいはマリア・ブティナの場合。彼女は米共和党支持団体の大会などに出席して有力政治家と接触していたが、2018年に正規の登録なしで外国政府の代理人(つまりスパイ)として活動していた罪で有罪判決を受けた。
しかしスパイ交換でロシアに戻り、今は晴れて国会議員となっている。2006年にロンドンでロシアの元工作員アレクサンドル・リトビネンコを殺害した容疑で英警察に追われている実業家のアンドレイ・ルゴボイも、今は国会議員だ。
前出のラドチェンコによれば、外国で捕まってスパイ交換で祖国に戻ったスパイが華々しく脚光を浴びることなど、ソ連時代には考えられなかった。しかし「今のロシア国民の目には、元スパイという肩書が立派な資産と映るらしい」とラドチェンコは言う。
「任務を果たせなかったスパイも、国に戻ればプロパガンダの片棒を担がされ、運がよければ豪勢な暮らしもできる。そこがソ連時代とは決定的に違う」