最新記事
日本経済

トランプ2.0で円安が進むなら、日本経済には「ショック療法」が必要だ

Japan's Shock Treatment

2024年12月14日(土)18時48分
浜田宏一(元内閣官房参与、エール大学名誉教授)

YCCに慣れきった金融・株式市場にショック

トランプの再選が市場により「強いアメリカ」の期待を生むとすれば、為替相場をいっそう円安方向に押しやるかもしれない。これに備えて、日本は短期金利引き上げを含めて金融政策をより弾力的に運営する必要にますます迫られるだろう。日米金利に差があるときには、金利の低い日本で借りて金利の高いアメリカに逃避する(キャリートレード)と利益が生ずるので、円安を止めるのは難しい。

日銀が7月31日の決定会合で、0〜0.1%とほぼゼロだった政策金利を0.25%に引き上げた時、ゼロ金利水準での緩やかなイールドカーブ・コントロール(YCC、金利満期曲線操作)に慣れきっていた金融・株式市場にショックが走った。株式市場は下げ幅で史上最高の下落幅を記録した。しかし、ときにはある程度のショック療法も必要である。

政策金利を動かすと、住宅金融の変動金利が上昇し、低迷している消費に悪影響があるという意見もある。しかし、そもそも変動金利は、固定金利がその時の市場金利より高い時に、住宅ローンの保有者に固定金利より低い金利という利益を与えていた。しかも、変動金利には返済額に上限を設ける125%ルールがあり、住宅ローン保有者の返済が急激に上昇するのを防いでいる。

金融政策が主な原因の極端な円安が日本経済に構造的ゆがみをもたらしている現在、政策金利の弾力的な行使ができないのは望ましいことでない。円安がもたらす将来のインフレを防ぐためには、金利が安定的な時に利益を受けていた変動金利利用者に、一時不利益が及ぶのもまたゲームのルールなのである。

現在のような「行き過ぎた高圧経済」下では、円安の効果は薄れている。ゼロ金利制約のためイールドカーブ・コントロールに頼る状況が、むしろ非日常手段だった。YCCが残るのは日本の金融政策だけである。石破新政権と植田日銀には、伝統的な枠組みの中で金融政策を行う余地が残されている。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中