米連邦準備理事会(FRB)、パウエル議長主導で「伝統的」金融政策に回帰か
ウォラー氏はパウエル氏とともにインフレとの戦いを主導し、気候変動など金融政策の影響が直接及ばない分野とFRBが距離を置く姿勢を保ってきた。
また、ウォラー氏は20年にFRBが採用した現在の政策運営の枠組みが足元の経済状況とそぐわなくなっているとの理由で改革を強く提唱すると目されている。
20年に起きた新型コロナのパンデミックは幅広いセクターで失業をもたらし、07―09年の金融危機後のような雇用回復の遅れを再発させないと決意したFRBにとって、労働市場の支援が最優先課題になった。こうした雇用回復の遅れは多くの人が「失われた10年」との感覚を持ち、一世代分の労働者に傷跡を残した。慢性的に弱い物価上昇率や歴史的な低金利は、スタグフレーション懸念も引き起こした。
20年の枠組みは、金利が低水準にとどまり、過去に比べてゼロ近辺で推移する期間が長いという前提に立ち、「広範囲かつ包摂的な」雇用創出という新たなコミットメントを加えて諸問題の解決に当たろうとするものだった。
ゼロ金利制約は中銀の存在意義を脅かす悩みの種だ。金利がゼロになれば、さらなる経済支援のために残される金融政策手段は筋が悪いか、政治的に難しい選択肢だけになる。金利はマイナス圏まで引き下げられるものの、これは実質的な預金者への課税となる。そのほかに考えられるのは大規模な債券買い入れによる長期金利抑制、ないしは低金利の長期継続というコミットメントなど。
20年の枠組みでは、物価が低迷した期間を埋め合わせて平均的に2%の物価上昇目標を達成するため、FRBはしばらくの期間物価が目標から上振れるのを容認することで事態を解決しようとした。
ところが、その後にさまざまな理由で進んだのが過去40年で最悪のインフレで、FRBは22年と23年に大幅な利上げを強いられた。一方、このような動きは休眠状態にあった経済を活性化し、財政など金融政策以外の経済政策を主役の座に据える結果になった面がある。
トレードステーションの市場戦略グローバル責任者、デービッド・ラッセル氏は「経済と株式市場は超低金利をももはや必要としていない。これからは貿易と税制が恐らく、金融政策より大事になるだろう」と語った。