最新記事
反核

ノーベル平和賞「被団協」の次に推したいのは、あのアンチ・ヒーロー

70 Years of Godzilla: From Nuclear Fears to Climate Change Battles

2024年10月15日(火)18時28分
アミール・ダフタリ
日本被団協のノーベル平和賞受賞を祝うポスター

ノーベル委員会の入り口に、日本被団協のノーベル平和賞受賞を祝うポスターが(ノルウェー、11月10日) Steffen Trumpf/dpa via Reuters Connect

<日本人の心に埋め込まれた反核への思いをこれからも受け継いでいくゴジラ>

2024年のノーベル平和賞を受賞したのは、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)だった。核兵器の危険性を長年にわたって訴えてきた功績が評価された。

【動画】シリーズ最新作『ゴジラ-1.0』は何を訴える?(トレイラー)

しかし、ノーベル賞委員会は授賞理由のなかで、「広島と長崎の地獄を生き延びた人々の運命は、長きにわたって隠され、無視されてきた」と指摘している。被団協が設立されたのは1956年で、被爆者の存在をなきものにしようとする動きと闘うことが目的だった。

被団協の設立と同じころ、日本からは、もうひとつ別の警告もやってきた。放射能を含んだ火炎(放射熱線)を口から発射する、巨大な怪獣ゴジラだ。1954年にシリーズ第1作が公開されて以来、ゴジラは70年にわたって、地球をもっと大切にするよう警鐘を鳴らしてきた。

『ゴジラ』シリーズが発信しているのは、人類は地球に対して責任があるという、切迫したメッセージだ。核戦争の恐ろしさを語り継ぐ広島・長崎の生存者はもう残り少ない。しかし、ゴジラは現在も、彼らの警告を象徴する存在であり続けている。

海外ではただの怪獣?

日本と核被害のつながりは、広島と長崎への原爆投下では終わらなかった。

アメリカが1954年にビキニ環礁で行った水爆実験でも、アメリカが設定した立ち入り禁止水域の外で操業していた遠洋マグロ漁船「第五福竜丸」の乗組員が、放射能を帯びた灰を浴びて被爆した。乗組員1人が死亡したほか、ほかの乗組員もさまざまな疾患にかかった。この悲劇は、初代『ゴジラ』の冒頭シーンに反映されている。

第五福竜丸事件と同じ1954年に公開された『ゴジラ』は、社会的な論争を盛り込んで、最先端の特殊効果を活用した作品だったが、海外版の制作にあたっては大幅な修正が加えられた。

1956年に公開された米国版の『Godzilla, King of the Monsters!(怪獣王ゴジラ)』では、放射能にまつわる核心場面がカットされ、ハリウッド俳優レイモンド・バーの登場シーンが追加されたほか、筋書きが書き換えられて、モンスター・バトル映画になった。

2004年に日本のオリジナル版が世界公開されるまで、日本以外の人にとっては、『ゴジラ』と言えばこの米国版だけだった。

シリーズ化に伴い、ゴジラの役割は大きくなった。1971年に公開された『ゴジラ対ヘドラ』では、作品のテーマが核戦争から公害へと変更された。同作でメガホンをとった坂野(ばんの)義光監督は、自身が関わった自然災害に関するドキュメンタリーにヒントを得て、『ゴジラ対ヘドラ』で公害による環境破壊を描いた。

汚染物質ヘドロを食べる公害怪獣ヘドラとゴジラが戦う設定で、環境破壊がもたらす黙示録を背景に、恐ろしい寓話仕立てになっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

12月住宅着工戸数は前年比マイナス2.5%、8カ月

ビジネス

みずほ証の10ー12月期、純利益は4.4倍 債券や

ビジネス

アングル:中銀デジタル通貨、トランプ氏禁止令で中国

ビジネス

日本製鉄、山陽特殊製鋼を完全子会社に 1株2750
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中