最新記事
ウクライナ戦争

ロシアの大攻勢を前にゼレンスキーが内閣改造...新外相シビハが直面する試練

New Top Team in Ukraine

2024年9月11日(水)15時10分
シャノン・マクドナー
ロシアを相手になお一歩も引かないゼレンスキー(2024年8月26日) ED RAM FOR THE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES

ロシアを相手になお一歩も引かないゼレンスキー(2024年8月26日) ED RAM FOR THE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES

<開戦から900日を超えて戦局は膠着、人事刷新で求心力を高める狙いだが>

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が大幅な内閣改造に踏み切った。侵略者ロシアとの戦いがまさに決定的な局面を迎えようとするなか、先手を打って自らの政権に「新たな活力」を注入するためだ。

最も注目すべきは外相の交代だろう。2022年2月24日の開戦以来、一貫して国際舞台でウクライナの「顔」として立ち回り、西側諸国に軍事支援と人道支援の強化を訴えてきたドミトロ・クレバに代わって、49歳で外務次官のアンドリー・シビハが外相に起用された。また司法省や天然資源省、戦略産業省など全9省庁でトップの首がすげ替えられた。


開戦から900日を超え、死傷者数はますます積み上がっている。9月3日にはウクライナ中部ポルタワの軍事教育施設がロシア軍のミサイル攻撃を受け、少なくとも55人が死亡、328人が負傷した。

ミサイルやドローンによる生活インフラへの集中攻撃を受け、既に同国の発電能力の約70%は失われている。国民の多くはこの先、暖房も水道もなしで冬のいてつく寒さに耐えなければならない。

ウクライナ軍はロシア西部のクルスク州に越境攻撃を仕掛けたが、ウクライナ領内の東部戦線ではロシア軍に押されており、重要な防衛拠点を脅かされている。一般市民の暮らす人口密集地への空爆も絶えない。

主要閣僚の顔触れは変わったが、現時点で大きな政策変更は予想されていない。2019年に大統領となったゼレンスキーの任期(5年)は既に切れているが、戒厳令下で選挙は封印されており、続投は既定路線だ。依然として人気は高く、開戦直後の90%には及ばないが、今も支持率は65%前後で推移している。

内閣改造は「多方面で国力を強化するため」の一歩だとゼレンスキーは語っているが、今後も軍事と政治、そして人道危機への対処で難しい舵取りを迫られることになる。

新外相が直面する難題

過去にもゼレンスキーは、孤立を恐れずに大胆な人事を断行してきた。今年2月には戦局打開を狙って軍の総司令官を交代させた。昨年9月には国防相の交代を事前に発表し、オレクシー・レズニコフを辞任に追い込んでいる。

11月には最大の支援国アメリカで大統領選挙がある。結果次第では欧米諸国の対ウクライナ政策が大きく変わる可能性があり、ウクライナ政府としては最悪の事態にも備えねばならない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

テスラ車販売、3月も欧州主要国で振るわず 第1四半

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中