最新記事
通貨

ユーロが「勝ち組」通貨に浮上...外為市場の波乱経て注目高まる

2024年8月23日(金)08時25分
ユーロ

8月21日、堅調だったドルが急落し、円安に歯止めがかかった世界的な外為市場の波乱を経て、ユーロが明確な「勝ち組」通貨として浮上してきた。写真はユーロとドルの紙幣。2023年3月撮影(2024年 ロイター/Dado Ruvic)

堅調だったドルが急落し、円安に歯止めがかかった世界的な外為市場の波乱を経て、ユーロが明確な「勝ち組」通貨として浮上してきた。

ユーロは足元で1ユーロ=1.10ドルの節目をはっきりと突破。月初めから2.5%余り上昇しており、8月は昨年11月以来で最も高い上昇率を記録しそうな勢いだ。


 

7月31日の日銀による利上げを受けた円の急伸と、米利下げ観測の高まりを背景とするドル安に気を取られていたトレーダーらも、ユーロに関心を持ち始めている。

なにしろ4月時点で1ユーロ=1ドルに下落するとさえ予想されていたユーロが、過去に難攻不落だった1ユーロ=1.10ドルを超えてきたからだ。

現在、ユーロは主要通貨の中で年初来の対ドル上昇率がポンドに次いで2位となっている。また、新興国市場通貨の弱さにも支えられているとは言え、ユーロの実効レートは過去最高水準に達した。

ユーロ/ドルの上昇は、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ観測が強まる一方で、ユーロ圏でサービス価格のインフレ率が高止まりして欧州中央銀行(ECB)の利下げ余地が限られるとの見方が広がる中で起こった。

コメルツバンクの通貨アナリスト、フォルクマール・バウア氏は「テーマは金利差だ」と語る。

「インフレ率は米欧両方で鈍化しているが、今後はFRBの方がやや積極的に利下げを進めると予想されている。これにより金利差は少し縮まりユーロが上昇しやすくなる」と同氏は述べた。

金融市場の織り込みを見ると、6月に利下げを実施したECBは年内に少なくともあと2回、25ベーシスポイント(bp)の追加利下げを行う見通し。対照的に、FRBは年内あと3回の連邦公開市場委員会(FOMC)全てで25bpの利下げを実施するだけでなく、そのうち1回はより大幅な利下げになる可能性が大きく織り込まれている。

8月初めに比べ、ECBについての織り込みは大きく動いていない一方、FRBの利下げ幅見通しは30bpほど拡大している。

米雇用統計が弱く、景気後退観測が広がって株と債券市場が荒れたことが、市場の見通しが変わるきっかけだった。

6月にはフランスの政治リスクがユーロを圧迫したが、そうした懸念も和らいだ。

フィデリティ・インターナショナルのマクロ・ストラテジック資産アロケーション・グローバル責任者、サルマン・アハメド氏は「フランスの選挙など、ユーロのリスク要因が一部取り除かれた。純粋に金融政策をテーマに動く相場になりつつある」と語った。

もっとも、ここから先はユーロの上値が重くなるかもしれない。

ユーロは現在、最近のレンジの上限近くで推移している上、金利差がさらにユーロを支援する方向に動く余地は狭まっているからだ。

コメルツバンクは、年末のユーロ/ドルを現在とほぼ同水準の1.11ドルと予想している。

INGは、1カ月後が1.12ドルで、その後は1.10ドルに下がると予想。BofAの年末予想は1.12ドルだ。

BCAリサーチのチーフ欧州投資ストラテジスト、マシュー・サバリ氏は「1.05ドルでユーロを買い、1.10ドルを超えれば売る」レンジ取引を推奨している。

一方、米大統領選で共和党のトランプ前大統領が勝利すれば、関税引き上げと減税の組み合わせによりインフレ率が高まり、FRBがタカ派的になってドル高につながるとアナリストは見ている。

ラボバンクの通貨ストラテジー責任者、ジェーン・フォリー氏は、足元のユーロ高の背景に、民主党候補のハリス米副大統領の支持率上昇があると指摘。「ユーロ/ドルが1.10ドル超え水準をしっかり維持する可能性があるのは、ハリス氏が勝利し米景気が減速した場合だ」と述べた。



[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 トランプショック
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月22日号(4月15日発売)は「トランプショック」特集。関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中