最新記事
感染症

鳥インフルエンザのウイルスを運ぶ、ハエが日本国内で発見される【最新研究】

Bird Flu Warning as Blowflies Found Carrying the Virus

2024年8月9日(金)11時45分
イザベル・キャメロン
ニワトリ

Pordee_Aomboon-shutterstock

<アメリカでは鳥類から乳牛への鳥インフルエンザ感染が報告され、哺乳類から哺乳類への感染が始まっている...>

鳥インフルエンザのウイルスを運ぶクロバエが西日本で発見され、新たな感染ルートに対する懸念が浮上している。

英誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に調査結果を発表した九州大学の研究チームは、鹿児島県出水市の野生のツルの飛来地で、動物の死骸や糞を食べるクロバエ648匹を採集。うち14匹がウイルスを運んでいることが分かった。

【関連写真】鳥インフルエンザのウイルスを運んでいたクロバエ を見る


論文を発表した九州大学農学研究院の藤田龍介准教授は、14匹は少数に思えるかもしれないが、クロバエの有病率は2.2%に相当し、昆虫が媒介する他の疾患に比べると非常に大きいと指摘する。

研究チームは出水市内のさまざまな場所にトラップを置いてクロバエを捕集し、遺伝子検査を行った結果、ツルの飛来地で感染していたのと同じ型のウイルスを運んでいたことを確認した。

藤田によると、研究チームが特に注目したのがオオクロバエだった。ほかのハエの仲間と違ってオオクロバエは冬に活動が活発になり、鳥インフルエンザの流行期と一致する。動物の死骸や糞に集まる習性とあわせて考えると、ウイルス感染を拡大させた筆頭の容疑者になる。

これに先立ちアメリカでは複数の州で鳥類から乳牛への鳥インフルエンザ感染が報告され、哺乳類から哺乳類への感染が始まっていた。

鳥インフルエンザは野生生物や養鶏業に大きな被害を発生させており、家畜との接触が多い人間も重大なリスクにさらされると藤田は指摘。したがって、ウイルス感染が広がる経緯や潜在的な感染ルートについて理解を深めることは、感染対策に欠かせないとしている。

感染したウイルスが体内で増殖する鳥類や哺乳類と違って、クロバエは感染して死んだ鳥や糞からウイルスを取り込む。そうしたウイルスは最大で2日間、感染力を保つ。

クロバエは1日に2キロ以上も飛ぶことができる。したがって4キロの範囲内の養鶏場や野鳥の生息地に到達できると研究チームは推測する。

施設を清潔に保ち、目の細かいネットや殺虫剤などのハエ対策を講じることで、屋内養鶏場にウイルスが拡散するリスクは低減できる。しかし日本以外の国の屋外養鶏場や野鳥の場合、クロバエを防ぐことは物理的に不可能かもしれないと藤田は言う。

研究チームはクロバエと鳥インフルエンザの流行を結び付ける決定的な証拠の発見を目指すとともに、AIを使って媒介昆虫のリスクを評価・予測するツールの開発を進めている。

先端技術とフィールド研究を組み合わせることでさらに理解を深め、鳥インフルエンザなど昆虫が媒介する疾患をコントロールして、動物と人間の両方の健康を守ることを目指すと藤田は話している。

(訳:鈴木聖子)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均2カ月ぶり4万円、日米ハト派織り込みが押し

ワールド

EU、防衛費の共同調達が優先課題=次期議長国ポーラ

ワールド

豪11月失業率は3.9%、予想外の低下で8カ月ぶり

ワールド

北朝鮮メディア、韓国大統領に「国民の怒り高まる」 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 5
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 6
    ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を…
  • 7
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 10
    統合失調症の姉と、姉を自宅に閉じ込めた両親の20年…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 6
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 7
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 8
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 9
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中