最新記事
米連邦裁

「バランスを失った」米連邦最高裁が下級審の判事たちにこき下ろされる

Dissenting Opinions

2024年8月2日(金)19時27分
キャサリン・ファン(国際政治担当)
「バランスを失った」米連邦最高裁が下級審の判事たちにこき下ろされる

TOM WILLIAMSーPOOL/GETTY IMAGES

<最高裁が選挙で選ばれたのではない「政治機関」に...民主主義の未来を懸念した下級審の判事たちが、あえて慣例を破って異議を唱え始めた>

アメリカでは最近、連邦最高裁判所への批判の声を上げる判事や元判事が増えている。イデオロギーの左右を問わず、また所属する裁判所を問わず、いずれもアメリカの民主主義の未来を憂えてのことだ。

デービッド・S・テートル元判事も声を上げた1人だ。

ビル・クリントン大統領(当時)に任命され、今年1月まで連邦控訴裁判所の判事を30年近く務めた人物だ。テートルは先ごろ発表した回顧録の中で、最高裁が司法の原則を「軽視」している点に嫌気が差したのも、退任の一因となったと語っている。


テートルだけではない。最近だけでもほかに2人の判事が最高裁を強く批判した。

5月にはオンライン誌スレートのインタビューで、ハワイ州最高裁のトッド・エディンズ判事(任命したのは当時の民主党の知事、デービッド・イゲ)が「都合のいい法律と事実を恣意的に選んでいるという点で、信じ難いほど誠実さに欠ける」と最高裁の判事たちをこき下ろした。

同じ5月、連邦地方裁判所のカールトン・リーブズ判事(任命したのは当時のバラク・オバマ大統領)も、ミシシッピ州で起きた冤罪事件の裁判で、最高裁が州や自治体の職員は責任を問われないとの原則を示したのは「違憲で誤りだ」と批判した。

「私の見解は、司法関係者の間で広く共有されていると思う」とテートルは本誌に語った。「多くの判事は回顧録における私の主張を当然のこととして受け止めるはずだ」

ニューヨーク大学法科大学院ブレナン司法センターのジェニファー・エイハーンは、判事が自分の担当する裁判以外のことで公に発言するのは「異例」であり、一部の判事が最高裁に対して異議を唱える決断をしたのは「非常に驚くべきこと」だと指摘する。

「これは氷山の一角にすぎないのではと思っている」と、エイハーンは本誌に語った。「リスクを冒して発言しようとする判事が数人いるのだから、同じように感じている判事はほかにもたくさんいるだろう」

ヒューストン大学で司法政策を研究しているアレックス・ベーダス准教授は本誌に対し、判事らの最高裁批判の背景には、司法における党派対立の激化と、最高裁判事の顔触れが保守派に大きく傾いていることへの一般市民の不満があると述べた。

「最高裁の中のバランスがもっと取れていた頃には、ある種の均衡が存在した。重要な裁判で保守派が勝つこともあればリベラル派が勝つこともあった。だから、現職の判事たちが批判の声を上げるのをためらわなくなるほど最高裁への怒りが蓄積されることもなかった」と、ベーダスは言う。

「(だが)そういう均衡はもはや存在していない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均2カ月ぶり4万円、日米ハト派織り込みが押し

ワールド

EU、防衛費の共同調達が優先課題=次期議長国ポーラ

ワールド

豪11月失業率は3.9%、予想外の低下で8カ月ぶり

ワールド

北朝鮮メディア、韓国大統領に「国民の怒り高まる」 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 5
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 6
    ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を…
  • 7
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 10
    統合失調症の姉と、姉を自宅に閉じ込めた両親の20年…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 6
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 7
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 8
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 9
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中