最新記事
米連邦裁

「バランスを失った」米連邦最高裁が下級審の判事たちにこき下ろされる

Dissenting Opinions

2024年8月2日(金)19時27分
キャサリン・ファン(国際政治担当)

newsweekjp_20240802022643.jpg

現役時代のテートル判事(2017年) NARA/JEFF REED

最高裁への批判の声は、右派の判事からも上がっている。J・マイケル・ルーティグ元判事は、自ら保守派をもって任じ、ジョージ・W・ブッシュ政権下で最高裁判事の候補となったこともある人物だが、最高裁批判の急先鋒としても知られている。

3月、ルーティグはアトランティック誌への共同寄稿文において、ドナルド・トランプ前大統領のコロラド州における大統領選出馬資格をめぐる裁判で最高裁が「合衆国憲法と国家に深刻な打撃」を与えたと非難した。

国への反乱に加わった国家公務員は大統領職に就けないことを定めた合衆国憲法修正第14条に対し「歴史的文脈を無視した誤った解釈」を行ったというのがその理由だ。


保守的な判断に保守派も反発

連邦控訴裁判所のケビン・ニューサム判事(任命したのはトランプ)も2月、シンポジウムの席上で最高裁を強く批判した。

ニューサムが問題視したのは、近年大きな話題となった判決で、最高裁判事たちが自らの判断を正当化するための根拠を、歴史的な「伝統」に求めている点だ。

「個々の判事の裁量に任される部分が大きくなりすぎる」危険があるアプローチだと、ニューサムは言う。

国民の最高裁に対する視線もこれまでになく厳しい。昨年のギャラップ社の調査によれば、最高裁の仕事ぶりを支持すると答えた人はアメリカの成人の41%にすぎなかった。

最高裁への支持率が過去最低の40%となったのは、人工妊娠中絶を禁止するテキサス州法の差し止めを行わない司法判断を下した後の21年9月だった。

これに続く形で最高裁は22年6月、73年のロー対ウェード判決を覆し、中絶を憲法で保障された権利として認めない判決を下した。

最高裁を批判する声が拡大した背景には、最近の判決に対する不満だけでなく、ここ20年ほどの大きなトレンドも影響している。

歴史的な大接戦となった00年大統領選に事実上決着をつけたブッシュ対ゴア判決(同年12月)後、最高裁の支持率は9ポイント下落し、翌01年1月のブッシュ政権発足時は59%に落ち込んだ(ただし、その半年後には62%まで持ち直している)。

近年の最高裁は、保守的な判決が増えているのに、共和党支持者からも信頼を失いつつある。

今年6月の世論調査会社イプソスの調査では、最高裁を「大いに」または「かなり」信頼していると答えた共和党支持者は52%で、前年7月より14ポイントも下がった。

民主党支持者を含めると、連邦裁判所を信頼していると答えた人の割合は48%で、州裁判所を信頼している割合は49%だった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは149円後半へ小幅高、米相互関税警

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中