「バランスを失った」米連邦最高裁が下級審の判事たちにこき下ろされる
Dissenting Opinions
最高裁への批判の声は、右派の判事からも上がっている。J・マイケル・ルーティグ元判事は、自ら保守派をもって任じ、ジョージ・W・ブッシュ政権下で最高裁判事の候補となったこともある人物だが、最高裁批判の急先鋒としても知られている。
3月、ルーティグはアトランティック誌への共同寄稿文において、ドナルド・トランプ前大統領のコロラド州における大統領選出馬資格をめぐる裁判で最高裁が「合衆国憲法と国家に深刻な打撃」を与えたと非難した。
国への反乱に加わった国家公務員は大統領職に就けないことを定めた合衆国憲法修正第14条に対し「歴史的文脈を無視した誤った解釈」を行ったというのがその理由だ。
保守的な判断に保守派も反発
連邦控訴裁判所のケビン・ニューサム判事(任命したのはトランプ)も2月、シンポジウムの席上で最高裁を強く批判した。
ニューサムが問題視したのは、近年大きな話題となった判決で、最高裁判事たちが自らの判断を正当化するための根拠を、歴史的な「伝統」に求めている点だ。
「個々の判事の裁量に任される部分が大きくなりすぎる」危険があるアプローチだと、ニューサムは言う。
国民の最高裁に対する視線もこれまでになく厳しい。昨年のギャラップ社の調査によれば、最高裁の仕事ぶりを支持すると答えた人はアメリカの成人の41%にすぎなかった。
最高裁への支持率が過去最低の40%となったのは、人工妊娠中絶を禁止するテキサス州法の差し止めを行わない司法判断を下した後の21年9月だった。
これに続く形で最高裁は22年6月、73年のロー対ウェード判決を覆し、中絶を憲法で保障された権利として認めない判決を下した。
最高裁を批判する声が拡大した背景には、最近の判決に対する不満だけでなく、ここ20年ほどの大きなトレンドも影響している。
歴史的な大接戦となった00年大統領選に事実上決着をつけたブッシュ対ゴア判決(同年12月)後、最高裁の支持率は9ポイント下落し、翌01年1月のブッシュ政権発足時は59%に落ち込んだ(ただし、その半年後には62%まで持ち直している)。
近年の最高裁は、保守的な判決が増えているのに、共和党支持者からも信頼を失いつつある。
今年6月の世論調査会社イプソスの調査では、最高裁を「大いに」または「かなり」信頼していると答えた共和党支持者は52%で、前年7月より14ポイントも下がった。
民主党支持者を含めると、連邦裁判所を信頼していると答えた人の割合は48%で、州裁判所を信頼している割合は49%だった。