最新記事
副大統領候補

トランプの「バンス副大統領」が世界にもたらす新秩序

J.D. VANCE’S FOREIGN POLICY

2024年7月25日(木)11時10分
アバ・カリナウスカス、サミュエル・ギャレット(いずれもシドニー大学・米国研究センター研究員)
トランプが選んだ共和党の副大統領候補バンス

バンスはウクライナへの軍事支援の継続には強硬に反対している JOE RAEDLE/GETTY IMAGES

<トランプが副大統領候補に選んだ39歳の若き上院議員はアメリカ・ファーストの後継者>

数カ月にわたる駆け引きの末、ドナルド・トランプが副大統領候補に指名したのは、アメリカ・ファーストの後継者であるJ・D・バンス上院議員だった。

バンスは、外交はおろか政治経験もほとんどない。しかしその外交姿勢は、トランプ政権下でマイク・ペンス前副大統領が取った外交路線とは一線を画す。ペンスは在任中の多くの時間を、同盟国やパートナー諸国を安心させるための外遊に費やし、予測不可能なトランプの行動の意図を説明することに力を注いだ。


もしトランプが11月の大統領選で当選したら、バンスもトランプ同様の影響力を持つかもしれない。バンス副大統領の誕生は世界にどのような意味を持つのか。外交政策の観点から見てみよう。

ウクライナ侵攻に興味なし、アジア・ファーストの孤立主義者

バンスはいわゆる「アジア・ファースト」を標榜する1人。欧州への関与を減らし、中国の台頭に対抗すべくアメリカの資源をアジアに向けるべきだと考えている。

議会ではウクライナ支援の継続に強硬に反対しており、アメリカは「あまりに長い間、ヨーロッパに安全保障を提供してきた」と主張。ヨーロッパ各国自身がウクライナへの軍事支援を強化するよう訴えている。

2年前、ロシアがウクライナに侵攻した直後、バンスは露骨にこう述べた。「正直なところ、ウクライナがどうなろうが知ったこっちゃない」。一方、アメリカが欧州を見捨てるわけではないとも発言している。

経済ナショナリストを支持

バンスは対中国政策においては、「ストレートな経済ナショナリストの主張」を支持。中国からの輸入品の関税引き上げは、ラストベルト(さびついた工業地帯)に経済的チャンスをもたらすと考えている。

特筆すべきは、国内の半導体産業の強化を掲げてバイデン政権下で成立した「CHIPSおよび科学(CHIPSプラス)法」を称賛していることだ。

中国が2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟して以降、アメリカは中国と正常な貿易を続けてきたが、バンスは中国の最恵国待遇を取り消す法案を提出している。世界経済の不安定化を引き起こす動きとなりそうだ。

米英豪の軍事的枠組み「AUKUS」を支持

インド太平洋への関与を増やしたいバンスだが、アジアの同盟国に言及することはほぼない。今年2月、ミュンヘン安全保障会議の席でアメリカ、イギリス、オーストラリアの安全保障の枠組みAUKUS(オーカス)の「ファン」だと発言、オーストラリアに軽く触れた程度だ。

中国に侵略されれば経済全体が崩壊しかねないとして、台湾は保護されなければならないとしている。

気候変動問題では立場を変える

気候変動に関するバンスの立場は上院選への出馬で変化している。20年には気候問題が迫っていると語っていたが、出馬に当たってトランプの支持を求めるや、人間が気候変動の責任を担うという見方には懐疑的だと語っている。

11月の大統領選までの数カ月の間に、バンスの外交哲学はどう変遷するのか。そこに注視することが、トランプの2期目、あるいは将来のバンス政権の概要を理解する上で重要なカギとなるかもしれない。

The Conversation

Ava Kalinauskas, Research Associate, United States Studies Centre, University of Sydney and Samuel Garrett, Research Associate, United States Studies Centre, University of Sydney

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.



20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中