EV大国中国の試練...販売減速と欧米規制の中で「生き残りのカギ」とは?

HERE COME THE CHINESE EVS

2024年7月16日(火)13時40分
湯進(タン・ジン、みずほ銀行ビジネスソリューション部上席主任研究員)

newsweekjp_20240711045007.jpg

上海工場で生産されるテスラのEV CFOTOーSIPA USAーREUTERS

その一方、中国政府は20年7月から農村部でのEV普及を目指すキャンペーン「新エネ車下郷(農村へ)」を打ち出し、EVメーカーに農村市場の開拓を奨励している。なかでも上汽通用五菱汽車(上海汽車とGMが出資)が投入した60万円ほどの小型EV「宏光MINI」の登場で、地方や農村地域でEVの価格破壊が起こった。乗用車には手が届かず、他の安価で簡易な乗り物を「移動の足」にしてきた消費者にとって、低価格EVが新たな選択肢となった。

こうした政策や魅力的な製品の登場は市場拡大の要因となった一方、補助金政策の終了とともに、EV市場の成長鈍化の兆しが見えている。

補助金終了で販売が伸び悩み

販売台数の伸び率を見ると、直近3年間で平均97%増であったのに対し、今年1~5月には12.7%増と大幅に低下している。「アーリーアダプター」といわれる流行に敏感で新しい商品やサービスを早い段階で購買する消費者層の購入が一巡したことも、減速要因として挙げられる。

価格帯別の市場構造からEV需要の実態は一目瞭然だろう。今年1~5月の販売台数に占める中高級車(20万~30万元〔440万~660万円〕)、低価格車(10万元〔220万円〕以下)の割合はそれぞれ37%、39%となっているものの、大衆車(10万~20万元)の割合は22%にとどまる。小売価格10万~20万元の新車は中国乗用車市場のボリュームゾーンだが、EVにとっては「難攻不落」のマーケットだ。攻略のためには、アーリーマジョリティー層(新製品やサービスの購入に慎重)から支持を得る必要がある。

newsweekjp_20240711051456.png

現在、一連の優遇政策などエンジン車と比べたコスパがEVの差別要素となっているが、消費者にとっては価格だけでなく、利便性や安全性も重要なポイントだ。EVがエンジン車に対抗するためには、3つの条件をクリアする必要がある。

1つ目は電池の性能向上だ。中国では寧徳時代新能源(CATL)など国内企業の成長に伴い、電池技術も急速に向上している。15年頃に300キロにとどまっていたEVの充電1回の走行距離は現在、リン酸鉄系電池で700キロ、三元系電池で1000キロを超える水準にまで達した。

一方、電池は低温時では使用可能な容量が大幅に低下し、冷暖房を使用すると走行距離も短くなる。寒冷地では充電時間が長くなり、長距離移動の利便性は大きく下がる。実際、中国北部のEV普及率は全国水準を下回り、エンジン車の需要は依然底堅いのが現状だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳は2月末までに会談可能、ロシア報道官が高官

ワールド

ベトナム、25年成長率目標8%以上に引き上げ 中国

ワールド

焦点:欧州、独力でのウクライナ平和維持は困難 米の

ビジネス

インドネシア中銀、予想通り金利据え置き 緩和サイク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 10
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中