最新記事
EV

EV大国中国の試練...販売減速と欧米規制の中で「生き残りのカギ」とは?

HERE COME THE CHINESE EVS

2024年7月16日(火)13時40分
湯進(タン・ジン、みずほ銀行ビジネスソリューション部上席主任研究員)
北京国際自動車展でも存在感を示したBYD。世界のEV市場をリードする(今年4月) VCGーREUTERS

北京国際自動車展でも存在感を示したBYD。世界のEV市場をリードする(今年4月) VCGーREUTERS

<EV大国に躍り出た中国が直面する販売減速、欧米が規制を強めるなか勢いは衰えるのか>

中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)が所有する自動車運搬船「エクスプローラーNO.1」は今年5月末、中国から27日間の航海を経て、ブラジル・ペルナンブコ州のスアペ港に到着した。ブラジル市場向けに5459台が輸送され、同港が1回で受け入れることができる車両数として過去最多の記録を更新した。

BYDは昨年から隣のバイア州にEVや電池などを製造する3つの工場を建設し、メキシコ工場の新設も視野に入れる。巨大な中国市場で競争力を築いた中国のEVメーカーが相次ぎ海外への輸出戦略を展開し、中南米や東南アジア、ヨーロッパで影響力が拡大している。国内EV市場の減速に伴う価格競争が激化する一方、グローバル市場が生き残りのカギとなっていることが背景にある。

カーボン・ニュートラルの潮流が世界で加速するなか、各国の政策はEV販売の追い風になっている。世界のEVとプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)の販売台数は昨年約1400万台で、中国、ヨーロッパ、アメリカの販売台数がそれぞれ全体の63%、21%、10%を占める。

一方、昨年から中国でもEVシフトの失速傾向が見え始めている。販売スピードが減速し、充電スポットの偏在や相次ぐ火災事故、消費者マインドをつかむ価格帯の実現など課題はいまだ少なくない。

世界のEV市場も同様だ。メルセデス・ベンツやゼネラル・モーターズ(GM)、フォードによるEV投資の延期に始まり、王者テスラの減速、アップルのEV事業中止など、世界の自動車業界で「EV失速」のムードが漂っている。

newsweekjp_20240711050837.png

ただ、世界に先駆けて急速なEVシフトが進む中国では市場の過熱感が一服しているようには見えるが、それは一過性のものであり、今後も躍進は続くだろう。中国の現状から減速要因と今後の展望を探る。

政策主導のEVシフト

中国における昨年の新車販売台数は輸出の好調を受け、過去最高の3009万台を記録した。なかでもEVとPHEVを中心とする新エネルギー車(NEV)の出荷台数はパンデミック前(2019年)の120万6000台から23年の949万5000台に急速に伸び、新車市場に占めるNEVの割合も31.6%に上昇した。では、中国はいかにしてEV大国になったのだろうか、その発展プロセスを確認しておきたい。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中