最新記事
南シナ海

南シナ海で睨みを利かす中国海警局の「モンスター船」、フィリピンEEZ内

China denies "monster ship" accusation

2024年7月11日(木)15時30分
マイカ・マッカートニー
南シナ海での日米韓合同演習

南シナ海で強硬姿勢を強める中国に対抗する日米韓の合同演習(4月11日) ABACA via Reuters Connect

<停泊したサビナ礁は「中国のものであり、フィリピンの排他的経済水域ではない」と批判を一蹴>

中国がフィリピン近海に「モンスター船」の異名を持つ中国海警局最大の船を停泊させているのは、南シナ海で領有権を争うフィリピンを威嚇するためだ、という疑惑を一蹴した。

【画像】中国海警「モンスター船」

中国外務省の林剣報道官は7月8日の記者会見で、何日も前から「モンスター船」が停泊しているスプラトリー(南沙)諸島のサビナ礁は中国が南シナ海に保有する島の一つであり、「フィリピンの排他的経済水域ではない」と主張した。

サビナ礁は最も近い中国の沿岸から約1126キロメートル離れている一方で、フィリピンのパラワン島からは約240キロメートル以内で、フィリピンの排他的経済水域内に位置している。国連海洋法条約では、排他的経済水域内の天然資源の探査・開発については沿岸国に主権的権利が与えられている。

中国政府はエネルギー資源が豊富な南シナ海の大半の海域について歴史的権利を主張しており、フィリピンなど複数の近隣諸国との間で領有権争いを繰り広げている。フィリピンはフェルディナンド・マルコスJr.大統領の強い抵抗を受けて中国が強硬な対応に出るケースが増えており、6月にはフィリピン軍の兵士数人が怪我をする事態も発生した。

林剣は、中国海警局によるサビナ礁近海での巡視活動および「法執行活動」は「中国の国内法および国連海洋法条約(UNCLOS)をはじめとする国際法の範囲内」の活動だと説明した。

緊張緩和を目指す会談と同じ日

オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所は2016年、国連海洋法条約に基づき、南シナ海に対する中国の領有権主張には法的根拠がないとの判断を下しているが、中国政府はこの判断が無効だと主張、受け入れを拒否している。

フィリピン沿岸警備隊は、7月2日にフィリピンの排他的経済水域に入る中国海警局のモンスター船「海警5901」を追跡したと発表した。この日は中国とフィリピンの代表団が、6月17日に発生した暴力的な衝突を受け、南シナ海の緊張緩和を目的とした会談を行っていた。

報告によれば、中国のモンスター船は領有権争いの中心の1つである南シナ海のセカンド・トーマス礁を直接目指して航行した。フィリピンはここに軍の部隊を駐留させており、中国はそれが違法だと反発している。さらにモンスター船はその日のうちにサビナ礁に向かった。フィリピン沿岸警備隊のジェイ・タリエラ報道官はX(旧ツイッター)に、問題の船に無線で警告を行ったが無視されたと投稿した。

「モンスター船」は総トン数1万2000トン。全長は約165メートルで米沿岸警備隊が保有する中で最も大型の警備艦よりも30メートル以上長く、フィリピン海軍が保有する最も大型の艦船の約1.5倍の長さだ。

タリエラは6日に出席したフォーラムでモンスター船がフィリピンの排他的経済水域内に停泊していることに触れ、「これは中国海警局による威嚇だ」と主張した。「われわれは引き下がらないし、怖気づくこともない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中