トランプ番組「衝撃の舞台裏」を元プロデューサーが暴露...「詐欺」への加担を悔やむ

THE LONG CON

2024年6月20日(木)15時43分
ビル・プルイット(テレビプロデューサー)

newsweekjp_20240620041808.jpg

ショーランナーのビーンストック FREDERICK M. BROWN/GETTY IMAGES

自信満々で繰り出す嘘の威力

『アプレンティス』は、その21世紀版と言えるだろう。ただし、このペテンは10年以上にわたり大手テレビ局のゴールデンタイムに流布され、信憑性を増していった。

視聴者は、トランプが大声で人に命令し、抜群のリーダーシップ(らしきもの)を発揮し、優秀な人材をクビにし、勝ち残った人物に仕事を与えるさまに夢中になった。だが何よりも、その自信に圧倒された。

そう、自信こそが、詐欺を成功させる重要なカギなのだ。

私が『アプレンティス』のプロデューサー採用面接を受けたとき、ショーランナー(現場責任者)のジェイ・ビーンストックも「この番組に必要なのは自信に満ちた人間だ!」と強調したものだ。

このとき私は、なぜトランプを起用したのか聞いてみた。当時の実績(連邦破産法の適用を何度も申請していた)を考えると、トランプの下で働くために前途有望な若者を競争させるという企画には無理があるように思えたのだ。

「シーズンごとに新しい富豪をホストにしたいと思っていた。(スティーブン・)スピルバーグなどにも連絡したが、出演に同意したのはトランプだけだった」と、ビーンストックは説明した。

その帰り道、私は古本屋に立ち寄り、『トランプ自伝──不動産王にビジネスを学ぶ』(邦訳・ちくま文庫)を買った。

ブランディングや戦略については含蓄に富むことが書いてあったが、トランプが大言壮語を吐き、業者に対する支払いを踏み倒し、欲しいものを手に入れるためなら信頼する仲間も裏切ることには触れていなかった(ゴーストライターを務めたトニー・シュウォルツは、この本をフィクションに分類するよう連邦議会図書館に求めている)。

ニューヨークは『アプレンティス』の格好の舞台だった。ただし、実際のトランプの執務室は狭苦しく、家具は傷だらけで、テレビ映えしなかった。

そもそもトランプ・タワーは大部分が住居で、高層階にわずかにオフィスが入っている程度だった。中2階にはブティックが入っていたが、空き店舗も多かった。

そこでトランプは、その空きスペースを番組用に提供し(もちろん割高な賃料で)、そこに受付のセットと、薄暗い役員室に通じるドアが設置された。

その隣には出場者が住む「スイート」が作られたが、実際に寝起きするのは小さなパーティションで区切られた硬い2段ベッドで、カメラに映し出されるのはゴージャスな共用部分だけだった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ポーランド、米と約20億ドル相当の防空協定を締結へ

ワールド

トランプ・メディア、「NYSEテキサス」上場を計画

ビジネス

独CPI、3月速報は+2.3% 伸び鈍化で追加利下

ワールド

ロシア、米との協力継続 週内の首脳電話会談の予定な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中