SF映画の世界...サウジ皇太子が構想する直線型都市は「未来の街」か「監視社会」か
A TALE OF TWO MEGALOPOLISES
古くて新しい「直線型都市」
直線型都市のアイデア自体は、新しいものではない。
1800年代にはスペインの都市計画者アルトゥーロ・ソリア・イ・マータが、このアイデアを先駆けて導入。路面電車の線路に沿って都市を建設し、通勤時間を短縮して人々の幸福度を最大限に向上させる構想を打ち立てた。
20世紀前半にはアメリカの都市計画者エドガー・シャンブレスが、アメリカ大陸を横断する直線型都市の設計を考案。同様の構想はソ連でも持ち上がっていた。
これらのプロジェクトは、いずれも実現していない。確かに計画は魅力的だった。移動手段は効率的だし、都市を拡張する際も容易にできるだろう。
しかし無秩序に広がることを防ぐために、直線型都市は極めて高いレベルの管理を前提としている。そこで暮らす人々も、ルールに従うことが求められる。
ザ・ラインは、60年代の実験的建築グループ「アーキグラム」や「スーパースタジオ」が開発したアイデアも取り入れている。
いずれも前衛的な設計で知られたグループで、前者は巨大な金属製の脚で地上を自由に移動できる構造物「ウオーキング・シティー」、後者は砂漠などの中に建てられた直線型の構造物「コンティニュアス・モニュメント」が有名だ(こちらは不気味なほどザ・ラインに似ている)。
だがアーキグラムやスーパースタジオの青写真は、アメリカの都市社会学者マイク・デービスが言う「夢を実現する都市主義」に興味を持つ専制君主や投資家に気に入られるために描かれたわけではない。
むしろその意図は反体制的であり、消費者資本主義に批判的だ。例えばコンティニュアス・モニュメントは、過度の都市化が自然破壊を引き起こす危険性を当時から提起していた。
スーパースタジオの共同創設者アドルフォ・ナタリーニは71年、「デザインが単に消費を誘うものなら、われわれはデザインを拒絶すべきだ。建築が単にブルジョア階級の所有権と社会のモデルを体系化するものなら、われわれは建築を拒絶すべきだ」と語った。
スーパースタジオは反消費主義と反資本主義の下に、反デザイン・反建築を掲げていた。
それでも60年代の反体制文化の動きとザ・ラインの間には、驚くべき連続性がある。NEOMに携わっているイギリスの建築家ピーター・クックは、アーキグラムの創設者だ。