「勢力図が塗り替わる」ガザ侵攻に揺れる欧州議会選、緑の党から新興左派政党への支持変更も
6月4日、 モロッコとパキスタンの血を引くドイツ人のナディール・アスラムさん(33)は、6―9日の欧州議会選挙で環境政党、緑の党に投票するつもりだった。写真は5月、パリでパレスチナ支持集会に参加する「不服従のフランス(LFI)」のリマ・ハッサン候補(右)(2024年 ロイター/Abdul Saboor)
モロッコとパキスタンの血を引くドイツ人のナディール・アスラムさん(33)は、6―9日の欧州議会選挙で環境政党、緑の党に投票するつもりだった。しかし、今では親パレスチナの姿勢を明確にしている新興左派政党Mera25に投票先を変えた。
アスラムさんはロイターに対し、ドイツ連立与党の一角である緑の党指導者が昨年11月に行った演説を聞いて、同党を支持する気持ちが「粉々になった」と語る。パレスチナ自治区ガザの死者が9000人に近づく中、ドイツによるイスラエルへの支持を一層強く打ち出す演説だったからだ。
こうした支持政党のシフトは今、欧州全土に広がっている。欧州統合プロジェクトを巡り既に極右政党から攻撃を受けている主流政党が、新たに左派からの脅威にさらされている形だ。
この傾向は欧州連合(EU)内のイスラム社会だけでなく、左派有権者にも広がっている。昨年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃を非難しながら、ガザへの軍事攻撃で今や3万6000人を超えるパレスチナ人を殺害したイスラエルを非難しない欧州の二重基準を、こうした有権者は問題視している。
オランダのラドバウド大学の社会学者、サミラ・アザバル氏は「急進右派と急進左派の政党が台頭している。これが欧州の政治状況、つまり政党の勢力図を塗り替えるだろう」と語る。
この状況はイスラエルに対するEUの姿勢にも影響を及ぼし、国レベルでの決定権を拡大する政策を後押しするかもしれないと同氏は言う。EU加盟国であるスペイン、アイルランド、スロベニアはパレスチナを国家として承認した。
<極右化>
近年は極右政党の人気が高まる一方で、マイノリティ(少数派)の有権者の投票先は急伸左派に傾いていることが調査結果から分かる。移民や文化的価値観などの問題で、主流政党が右傾化しているためだ。
調査会社イプソスが先月実施した世論調査によると、欧州議会選では極右勢力が最大の躍進を遂げる一方、左派グループも6議席を増やす情勢。いずれも社会民主党、緑の党、欧州刷新党の会派から議席を奪う見通しだ。
エクス・マルセイユ大学の歴史学者ブランディーヌ・シュリーニポン氏によると、フランスでは極左政党「不服従のフランス(LFI)」が、イスラム教徒や急進左派の有権者を獲得するため、親パレスチナ姿勢を主軸に据えた選挙戦を展開している。
LFIは武器輸出禁止、イスラエルへの制裁、パレスチナ国家承認を訴えているほか、他の左派グループとは対照的に、ハマスをテロリスト集団とは呼んでいない。同党の支持率は8%だが、イスラム教徒に限ると44%となっている。
フランスの社会党もパレスチナ国家の承認を求めているが、ハマスに対する姿勢はLFIと異なる。