最新記事
欧州

「勢力図が塗り替わる」ガザ侵攻に揺れる欧州議会選、緑の党から新興左派政党への支持変更も

2024年6月7日(金)19時29分
欧州議会選 ドイツ

6月4日、 モロッコとパキスタンの血を引くドイツ人のナディール・アスラムさん(33)は、6―9日の欧州議会選挙で環境政党、緑の党に投票するつもりだった。写真は5月、パリでパレスチナ支持集会に参加する「不服従のフランス(LFI)」のリマ・ハッサン候補(右)(2024年 ロイター/Abdul Saboor)

モロッコとパキスタンの血を引くドイツ人のナディール・アスラムさん(33)は、6―9日の欧州議会選挙で環境政党、緑の党に投票するつもりだった。しかし、今では親パレスチナの姿勢を明確にしている新興左派政党Mera25に投票先を変えた。

アスラムさんはロイターに対し、ドイツ連立与党の一角である緑の党指導者が昨年11月に行った演説を聞いて、同党を支持する気持ちが「粉々になった」と語る。パレスチナ自治区ガザの死者が9000人に近づく中、ドイツによるイスラエルへの支持を一層強く打ち出す演説だったからだ。

こうした支持政党のシフトは今、欧州全土に広がっている。欧州統合プロジェクトを巡り既に極右政党から攻撃を受けている主流政党が、新たに左派からの脅威にさらされている形だ。

この傾向は欧州連合(EU)内のイスラム社会だけでなく、左派有権者にも広がっている。昨年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃を非難しながら、ガザへの軍事攻撃で今や3万6000人を超えるパレスチナ人を殺害したイスラエルを非難しない欧州の二重基準を、こうした有権者は問題視している。

オランダのラドバウド大学の社会学者、サミラ・アザバル氏は「急進右派と急進左派の政党が台頭している。これが欧州の政治状況、つまり政党の勢力図を塗り替えるだろう」と語る。

この状況はイスラエルに対するEUの姿勢にも影響を及ぼし、国レベルでの決定権を拡大する政策を後押しするかもしれないと同氏は言う。EU加盟国であるスペイン、アイルランド、スロベニアはパレスチナを国家として承認した。

<極右化>

近年は極右政党の人気が高まる一方で、マイノリティ(少数派)の有権者の投票先は急伸左派に傾いていることが調査結果から分かる。移民や文化的価値観などの問題で、主流政党が右傾化しているためだ。

調査会社イプソスが先月実施した世論調査によると、欧州議会選では極右勢力が最大の躍進を遂げる一方、左派グループも6議席を増やす情勢。いずれも社会民主党、緑の党、欧州刷新党の会派から議席を奪う見通しだ。

エクス・マルセイユ大学の歴史学者ブランディーヌ・シュリーニポン氏によると、フランスでは極左政党「不服従のフランス(LFI)」が、イスラム教徒や急進左派の有権者を獲得するため、親パレスチナ姿勢を主軸に据えた選挙戦を展開している。

LFIは武器輸出禁止、イスラエルへの制裁、パレスチナ国家承認を訴えているほか、他の左派グループとは対照的に、ハマスをテロリスト集団とは呼んでいない。同党の支持率は8%だが、イスラム教徒に限ると44%となっている。

フランスの社会党もパレスチナ国家の承認を求めているが、ハマスに対する姿勢はLFIと異なる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中