最新記事
シェルター

ドイツが国民の防空壕整備を検討、全面戦争のリスクを懸念

Germany Is Preparing Scenarios in the Event of War—Report

2024年6月6日(木)14時48分
ブレンダン・コール
第二次大戦中にイタリアのムッソリーニが作った防空壕

第二次大戦中にイタリアのムッソリーニが作った防空壕(ローマ) Photo by Piero Tenagli / ipa-agency.net/IPA/Sipa USA

<先の大戦から残った地下壕もあるが、精密誘導兵器が攻撃の主となる現代の戦争からは逃れられない恐れもある>

ドイツでは、戦争が起きた場合に国民を保護するための「地下シェルター」の建設が検討されはじめた。ドイツ誌シュピーゲルは、ドイツ政府は全面侵攻があった場合に国民を守る方法についての提言をまとめたと報じた。

【画像】ドイツ空軍機がスクランブルをかけたロシア機IL20と戦闘機


 

ウクライナで続く戦争により安全保障リスクが高まったとの懸念から、ドイツの地方議会は政府に対して、古い地下壕の修復を呼びかけているということは、3月にも報じられていた。

だがシュピーゲルは、6月にポツダムで開かれる州内相らの会合で議論される予定の報告書を引用し、何千人もの人を収容できる大規模なシェルターは、「警報から数分で標的に到達する現代の精密誘導兵器から国民を守る対策としては適切ではない」と指摘。民間人にとっての最大の危険は「がれきや爆発物の金属片、または爆風」だという専門家の意見を引用した。記事の中では、こうした攻撃を行ってくる可能性がある「敵」は特定されていない。

家屋や地下室もある程度の保護を提供できるが、窓や隙間を覆うなどの簡単な措置を施せば、さらに安全度が増す。

公共の建物やデパート、地下駐車場や地下鉄の駅にある部屋や既存の地下壕は、大都市で自宅から離れた場所にいる人々が急な攻撃から身を守るのに適しているだろう。

古い地下壕だけでは足りない

だが第二次大戦時とは異なり、想定されるのは広範囲に及ぶ攻撃ではなく、政府関連の建物や「その他の重要インフラ」などの選び抜かれた標的への攻撃だと専門家は指摘する。

現代の兵器の精度は「きわめて高く、直撃すればどんなシェルターももたない可能性がある」という。シュピーゲルは記事の中で、冷戦時に西ドイツには約2000の地下壕があり、このうち579カ所が今も民間防衛用に使用可能で、約47万人を収容できると指摘した。だがドイツの国民8500万人全員を守るためにはさらに21万100の地下壕の建設が必要で、それには1402億ユーロ(約1520億ドル)かかるという。

長期的な解決策としては、各自が自宅に専用の入り口と換気設備や物資の保管場所を備えたシェルターを持つ方法が考えられるが、全国に十分な数のシェルター付き住宅を供給するには数十年かかる可能性がある。

ドイツ国際公共放送のドイチェ・ウェレの報道によれば、都市自治体協会の会長を務めるアンドレ・ベルゲッガーは3月に、「使われなくなった地下壕を再び使えるようにすることが急務」だと発言。「戦争の危険」から国民を守るためには、民間防衛のために今後10年間、毎年少なくとも10億ユーロ(約10億800万ドル)を連邦予算から拠出するべきだと主張した。

20250318issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年3月18日号(3月11日発売)は「日本人が知らない 世界の考古学ニュース33」特集。3Dマッピング、レーダー探査……新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンドの個別株ポジション解消、7日は過去2

ビジネス

日経平均は1000円超安に下げ幅拡大、一時3万60

ビジネス

実質GDP10─12月期、年率+2.2%に下方修正

ビジネス

身近なものの価格上昇で「国民は厳しい状況」=赤沢経
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 2
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 3
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 4
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 5
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 6
    「中国の接触、米国の標的を避けたい」海運業界で「…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 10
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 10
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中