敗者なき結果は民衆の「迷い」か「知恵」か、頼清徳(ライ・チントー)政権誕生の台湾新時代を読み解く
ROAD TO A NEW TAIWAN
民衆党台頭が意味するもの
一方、国民党は立法院の優位を握ることに成功しそうだ。
選挙を主導した朱立倫(チュー・リールン)党主席は続投となるだろう。
立法院には、一部の有権者に圧倒的な人気を有する20年の総統候補、韓国瑜(ハン・クオユィ)前高雄市長が比例代表1位で送り込まれ、「国会議長」に就任する可能性がある。
民衆党も、総統選挙では敗れたとはいえ柯の得票率は3割に迫って予想以上の善戦となり、立法院でも大きく勢力を拡大しそうだ。
初めて総統選・立法委員選の両方に挑んだなかで次につながる結果であった。そして重要なのは、立法院で二大政党を相手取ってキャスチングボートを握れることだ。
今回の民衆党の台頭こそ、台湾政治にとっては大きな衝撃だった。
事実上の柯の個人政党の色彩が強いが、徹底したネット戦略で若者・中間層の心をつかんだ。
カメレオンのようにくるくると言うことが変わる柯は、伝統的な政治的価値観からすれば全く信のおけない人物となる。
ところが、率直で分かりやすいネット言語を使いこなす柯のことを若者たちは「自分たちの救世主」とばかりに熱愛し、最後まで「推し」を変えようとはしなかった。
アメリカのトランプ信奉者を見れば分かるように、今や政治は宗教に近づき、政治家に必要なのは信頼より信仰、なのかもしれない。
詰まるところ、どの政党も完全なる「勝者」ではないが、自分たちを「敗者」とする理由も見当たらない。
その意味では、民進党、国民党、民衆党の三つ巴(どもえ)の争いは今回は決着がつかず、4年後の28年選挙までの「延長戦」となったのである。
台湾の選挙には、実はもう1人、裏のプレーヤーがいるというのが定説だ。言うまでもなく中国である。
台湾統一に執念を燃やす習近平(シー・チンピン)国家主席は今回の結果をどう受け止めているのだろうか。
本稿締め切りとなる13日夜時点で中国からの公式コメントは出ていないが、中南海で習は独り、ほっと胸をなで下ろしているのではないだろうか。
習が12年に着任してから、台湾問題ではいいところがなかった。
14年のひまわり学生運動でサービス貿易協定を台湾にほごにされ、歴史的なトップ会談となった習近平・馬英九(マー・インチウ)の15年の初会談もむなしく、国民党は翌16年の選挙で惨敗。
20年は勝てると思ったが、香港デモの影響で再び蔡に勝利を許し、アメリカはいつの間にか台湾を「半同盟国」であるかのように軍事的関与を強めるようになった。