最新記事
台湾

敗者なき結果は民衆の「迷い」か「知恵」か、頼清徳(ライ・チントー)政権誕生の台湾新時代を読み解く

ROAD TO A NEW TAIWAN

2024年1月19日(金)17時17分
野嶋 剛(ジャーナリスト、大東文化大学教授)

240123p18_INT_04.jpg

勢力を拡大した民衆党候補の柯文哲 ALEX CHAN TSZ YUKーSOPA IMAGESーSIPA USAーREUTERS

民衆党台頭が意味するもの

一方、国民党は立法院の優位を握ることに成功しそうだ。

選挙を主導した朱立倫(チュー・リールン)党主席は続投となるだろう。

立法院には、一部の有権者に圧倒的な人気を有する20年の総統候補、韓国瑜(ハン・クオユィ)前高雄市長が比例代表1位で送り込まれ、「国会議長」に就任する可能性がある。

民衆党も、総統選挙では敗れたとはいえ柯の得票率は3割に迫って予想以上の善戦となり、立法院でも大きく勢力を拡大しそうだ。

初めて総統選・立法委員選の両方に挑んだなかで次につながる結果であった。そして重要なのは、立法院で二大政党を相手取ってキャスチングボートを握れることだ。

今回の民衆党の台頭こそ、台湾政治にとっては大きな衝撃だった。

事実上の柯の個人政党の色彩が強いが、徹底したネット戦略で若者・中間層の心をつかんだ。

カメレオンのようにくるくると言うことが変わる柯は、伝統的な政治的価値観からすれば全く信のおけない人物となる。

ところが、率直で分かりやすいネット言語を使いこなす柯のことを若者たちは「自分たちの救世主」とばかりに熱愛し、最後まで「推し」を変えようとはしなかった。

アメリカのトランプ信奉者を見れば分かるように、今や政治は宗教に近づき、政治家に必要なのは信頼より信仰、なのかもしれない。

詰まるところ、どの政党も完全なる「勝者」ではないが、自分たちを「敗者」とする理由も見当たらない。

その意味では、民進党、国民党、民衆党の三つ巴(どもえ)の争いは今回は決着がつかず、4年後の28年選挙までの「延長戦」となったのである。

台湾の選挙には、実はもう1人、裏のプレーヤーがいるというのが定説だ。言うまでもなく中国である。

台湾統一に執念を燃やす習近平(シー・チンピン)国家主席は今回の結果をどう受け止めているのだろうか。

本稿締め切りとなる13日夜時点で中国からの公式コメントは出ていないが、中南海で習は独り、ほっと胸をなで下ろしているのではないだろうか。

習が12年に着任してから、台湾問題ではいいところがなかった。

14年のひまわり学生運動でサービス貿易協定を台湾にほごにされ、歴史的なトップ会談となった習近平・馬英九(マー・インチウ)の15年の初会談もむなしく、国民党は翌16年の選挙で惨敗。

20年は勝てると思ったが、香港デモの影響で再び蔡に勝利を許し、アメリカはいつの間にか台湾を「半同盟国」であるかのように軍事的関与を強めるようになった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中