敗者なき結果は民衆の「迷い」か「知恵」か、頼清徳(ライ・チントー)政権誕生の台湾新時代を読み解く
ROAD TO A NEW TAIWAN
中国は主要な争点にならず
今後、頼の船出はかなり厳しいものになるだろう。それは同日に行われた立法委員(国会議員)選挙の結果からも明らかだ。
民進党は現有議席の62を大幅に減らして50議席程度にとどまりそうだ。
国民党は現有議席の38を大きく増やして50議席を超え、国会第1党の地位をつかむかもしれない。ただ定数113議席の過半数となる57議席には達しない。
第3勢力の民衆党は現有議席の5から数議席伸ばす。民進党は、蔡総統時代の「完全執政」、つまり総統と立法院の両方を握ることを断念することになる。
立法委員選での民進党の大きな後退は、総統選での苦戦と深くつながっている。
「台湾は台湾」という世論が主流になる台湾社会において、台湾の主体性を掲げて中国と距離を置こうとする台湾ナショナリズムを掲げる民進党は、基本的に選挙において有利なポジションにある。
20年の総統選でも、19年の香港のデモの鎮圧が影響を及ぼし、香港の苦境から「台湾の将来」を不安視する人々の思いが追い風になった。
だが、今回の選挙で議論が集中した争点は「中国問題」や「台湾の在り方」ではなかった。
民進党議員の不祥事、女性スキャンダル、脱原発政策をめぐる混乱。22年11月に民進党が惨敗した統一地方選挙同様、「与党のおごり」を野党両党から猛烈に攻撃されてしまったのだ。
選挙戦では頼が精彩を欠く場面を何度も目撃した。
昨年12月下旬の台北市。ある立法委員の応援に駆け付けた頼だったが、演説途中から帰り始める人々が目立った。
演説も盛り上がりに欠け、「無聊(面白くない)」という聴衆のぼやきも聞こえてきた。
頼はもともと血気盛んな青年将校のようなキャラクターで、「実務的な台湾独立主義者」と自称していたが、独立派と認定されることを恐れ、選挙ではそうした主張は完全に封印。
穏健な「蔡英文路線」の踏襲に徹して、安全運転に務めた。理解はできるが、似合わない服を着せられたような窮屈さは否めなかった。
野党の勢いに押され、支持率が伸び悩むことでさらに失言回避の姿勢が強まった。
炭鉱労働者の父親を早くに亡くした貧しい家庭出身である庶民性がある意味で「売り」だったのに、新北市の炭鉱地域にある実家が特権を利用して改築されたのではないかとの疑惑も突き付けられ、釈明に追われた。
選挙戦終盤は、党の支持率以上に人気がある蔡が、見かねて前面に出て選挙運動に入り、辛うじてリードを保って逃げ切った。当選後、頼がかつての「覇気」を取り戻せるかどうか要注目である。
とはいえ民進党は総統のポストを維持できた。台湾に直接投票の総統選挙が導入されて以来、2期を超えて政権担当が続くことは初めてのことだ。
繰り返すが、民進党は敗北したわけではない。