「猫も人間が好き。ただ犬より愛情表現が分かりにくい」最新科学が解き明かす猫の本当の気持ち

THE MIND OF A CAT

2023年12月28日(木)17時26分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)
最新科学が解き明かす本当の猫の気持ち

RICHARD NEWSTEAD/ISTOCK

<猫は社会性がなく冷淡なイメージだが、本当は飼い主のことをどう思っているのか?犬との比較研究や実験による新たな発見から、猫の真実と上手な付き合い方が見えてきた>

動物行動学者のペーテル・ポングラッツは4匹の猫──クッキー、スシ、クランブルズにスティンキー──と暮らしているだけあって、猫のミステリアスな心を解き明かすための研究テーマには事欠かない。

ペットとして世界で人気第2位の猫は、人間に対してどんな感情を抱いているのか。飼い主のことをどう思っているのか。

とはいえ謎の解明を手伝ってくれる忍耐強く意欲的な大学院生は、そういない。

人間にいい子だと褒められ、ご褒美の骨をもらうためなら何だってする犬という研究対象がいるとなれば、なおさらだ。

ハンガリーのウトブス・ロラーンド大学で教鞭を執るポングラッツが研究の難しさを思い知ったのは、2005年のことだった。

猫を研究室に連れてきてもらったところ、たちまち空調設備のダクトから壁の後ろに潜り込んでしまったのだ。

飼い主の必死の呼びかけもむなしく猫は姿を表さず、研究チームは夕方までかかって壁を解体した。猫の研究に挑戦したがる大学院生を再び見つけるのに、ポングラッツは10年余りを要した。

「私はとにかく猫に夢中で、猫の研究ができると聞けば見境なく飛び付く」と、ポングラッツは言う。

「アイデアはいくらでもあるが、一緒に猫を研究してくれる学生はなかなかいない」

数年前、彼はためらいつつも「猫の認知研究」に復帰した。研究室の壁の裏に「被験者」が消える事態を防ぐため、猫のいる場所にこちらから出向くことにした。

まずは飼い主にアンケートを実施。

「あなたの猫はほかの猫の鳴き声をまねしますか?」「あなたの猫には共感能力やコミュニケーション能力があると思いますか?」「どの程度の理解力があると思いますか?」といった質問をした。

アンケートの集計が終わったところで、ポングラッツは学生たちを猫が住む家に派遣し、実際の行動を観察させた。

犬より愛情表現は複雑だが

こうして18年に発表した論文は、人間と良好な関係を結ぶ猫の能力に新たな光を当てた。

研究結果によれば猫は驚くほど巧みに人間の視線を追い、人間の意図を推し量る。

室内飼いの猫と外飼いの猫では生活様式の違いから、認知に大きな違いが出ることも明らかになった。室内飼いの猫はボールなどの人工物を使った遊びに、外飼いの猫よりはるかに強い興味を示した。

ポングラッツの論文は、この5年間に相次いで発表された猫の認知をめぐる研究結果の1例だ。

猫は尊大で気まぐれだから研究対象としては手が焼ける。それでもここへきて、猫の研究は盛り上がりを見せている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中