邪悪で安定した悪夢の習路線は続く
ISSUES 2024: CHINESE POLITICS
より説得力があるのは「脱盗用」を図っているという解釈だ。習はレーニン流の二分化した統治モデルから、巨大な一枚岩の構造へ移行しようとしているのではないか。そうした構造は党中央が掲げる一元的指導体制、意思決定機関に非党員がほぼ存在しない現実、および「中華帝国」の伝統とはるかによくかみ合う。
だが、全体主義的効率の改善を目指す習の取り組みが成功しても、良策かどうかは疑問だ。党と政府の二分化体制は、権力分配が偏っているとはいえ、チェックアンドバランス(権力の抑制と均衡)制度がわずかながら存在する。そのため、毛時代の中国は完全な混乱に陥らずに済んだ。習はその上を行けるのか?
経済がはるかに豊かになった分、習のスタート地点は有利だ。とはいえ全体主義的効率で誤った政策を実行すれば、破壊の速度と致命度が増すだけだろう。わずか10年ほどの間に、中国経済が好調から危険水域へ落ち込んでいるのは、まさに習の構造改革が原因なのかもしれない。
債務まみれでも軍備拡張
「中国経済の奇跡」には終焉が迫り、今や地方政府の深刻な債務問題、不動産バブル崩壊と金融危機の懸念、外国直接投資(FDI)の急減、特に若年層で目立つ失業率の上昇に見舞われている。その象徴が、GDP成長率の伸び悩みだ(公式発表では、22年の成長率は前年比3%だった)。
中国の共産主義体制においては、どれほど必要不可欠でも、経済問題の解決のために党の主義主張を犠牲にすることは許されない。それ故に、毛時代の経済的惨事から中国を救い出そうと力を尽くした鄧小平は、民主化要求デモによって体制の政治的生き残りが問われた89年、ためらわずに自国民を虐殺した。
一方、自らの政治生命も体制も全く脅かされていない習の立場はずっと強い。おかげで、中国経済の4つの大問題に取り組みながらも、自身の政治計画を実行する余地がある。
だからこそ、地方政府が債務まみれでも、習は巨額を投じて外国の港湾を買収し、戦略的な軍事ルートや国外基地を建設している。台湾の不安定化を目的に軍備を増強し、領土拡張策を阻む近隣国に脅しをかけ、戦争を見据えた備蓄も進めている。中国では22年半ば以降、景気停滞が既に明らかだったにもかかわらず、穀物や原油の輸入が拡大傾向にある。
こうした動きは新年も続くどころか、強化されるだろう。激減した経済力と、より効率的かつ悪質な独裁的統治マシン──そんな邪悪ながらも安定した平衡状態へ中国は向かっている。その効果は? 国内での抑圧と外国への攻撃を強めるほかに、期待できることはほとんどない。
練乙錚
LIAN YI-ZHENG
香港生まれ。米ミネソタ大学経済学博士。香港科学技術大学などで教え、経済紙「信報」編集長を経て2010年から日本に暮らす。
2024年12月10日号(12月3日発売)は「サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦」特集。地域から地球を救う11のチャレンジとJO1のメンバーが語る「環境のためにできること」
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら