「台湾独立のための現実的な働き手」台湾総統選の最右翼、頼清徳(ライ・チントー)の正体
LAI CHING-TE
(写真中央が頼清徳) ANN WANGーREUTERS
<来年1月に迫る台湾総統選では民進党の頼清徳が優勢とみられるが、台湾総統のホワイトハウス訪問を望む彼には、中国はもちろんアメリカにも一定の懸念がある。 本誌「ISSUES 2024」特集より>
人呼んで「トラブルメーカー」。ただし、ここでの「人」は中国政府の要人や中国国営メディアを指す。
新年早々の1月13日に行われる台湾総統選に与党・民進党から立候補している頼清徳(ライ・チントー)副総統が、そう呼ばれるのには理由がある。
2017年に「台湾独立のための現実的な働き手」を自称したことがあるからだ。頼は今、各種の世論調査で支持率トップに立っている。
言うまでもないが、台湾の「再統一」を掲げる中国側にとって「独立」は絶対的な禁句。
だから台湾の有力者がこの語を口にするたび、中国政府は過敏なまでの反応を示す。
現職の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は民進党でも穏健派で、独立ではなく台湾海峡の「現状維持」を掲げているが、それでも中国政府からは嫌われている。
だが「トラブルメーカー」の頼は、少なくとも当初は独立派の急先鋒だった。
そして10〜17年に台南市長を務め、「善良な頼」と呼ばれる人気者になっていた。
それでも蔡の後継者に指名されてからは急進的な独立論を封じ、現政権の「現状維持」路線を踏襲する姿勢を見せている。
17年の発言についても弁明し、「台湾独立」の語は「台湾は中華人民共和国の一部ではない」という島民の総意を指すもので、「現実的な働き手」というのも中国の侵略から台湾の主権を守り抜くという以上の意味ではないとしている。
いずれにせよ、頼は選挙戦を有利に進めており、大陸寄りの国民党や台湾民衆党の候補は苦戦している。
もしも3回続けて総統選に敗れることになれば、さすがの国民党も大陸寄りの路線を見直さざるを得ないかもしれない。
中国側には好ましくない展開だが、実はアメリカも、決して手放しには喜べない。
いつかホワイトハウスに
そもそも米政府は「台湾海峡の現状維持」への支持を公式に表明しており、アメリカの現職大統領と台湾の現職総統が直接接触することは原則として避けてきた。
だから頼が23年7月に「いつか台湾総統がホワイトハウスに足を踏み入れることのできる日」が来ることを望むと発言したとき、アメリカ側は眉をひそめた。
この発言は、将来の対米関係に関する彼のビジョンの表明でもあった。
自身の副総統候補に駐米台北経済文化代表処代表(事実上の全権大使)の蕭美琴(シャオ・メイチン)を指名したのも、そのビジョンがあればこそだ。彼女は母がアメリカ人で英語に堪能、首都ワシントンの政界とのパイプも太い。