最新記事
化学物質

発癌性も指摘される化学物質「PFAS」の正しい怖がり方...生活者が意識すべきこととは?

Avoiding “Forever Chemicals”

2023年12月21日(木)13時40分
ハンナ・ドクター・ローブ
ファスナーやフライパン、レインコートなどにも使用されている ANNE NYGARD ON UNSPLASHーSLATE

ファスナーやフライパン、レインコートなどにも使用されている ANNE NYGARD ON UNSPLASHーSLATE

<身の回りの日用品や水道水にも含まれているPFAS。発癌性も指摘される「永遠の化学物質」にどう向き合う?>

一部の自社製品で使用している塗料に「PFAS(ピーファス)」と呼ばれる化学物質が含まれていたとして、ファスナー最大手の日本企業YKKが取引先のアパレル企業などに注意喚起していたと、2023年10月にブルームバーグ・ニュースが報じた。

PFASが含まれている可能性のある製品のリストに、また新しい製品が加わった。このリストには、焦げ付きにくいフライパンに始まり、デンタルフロス、防水繊維、そしてオムツに至るまで、実に多くの製品が名を連ねている。

PFASを体内に取り込むと、さまざまな癌の発症、コレステロール値の上昇、肝臓へのダメージ、免疫反応の低下、赤ちゃんの出生時の体重低下など、数々の健康上の弊害があるとされている。

PFAS(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)は、1万6000以上ある有機フッ素化合物の総称だ。「大きな家系図にたくさんのメンバーが属しているようなもの」だと、米サイレント・スプリング研究所のローレル・シャイダー上級研究員は言う。

全てのPFASに共通する特徴は、炭素とフッ素が強力に結合していることだ。この性質により、日用品に用いると、焦げ付きにくい、汚れが付きにくい、撥水性が高いなど、有益な点が多い。

しかし、PFASは化学的安定性が高く、分解しにくい。「『永遠の化学物質』と呼ばれるのはそのためだ」と、ボストン大学公衆衛生大学院のウェンディ・ハイガーバーネイズ教授(環境衛生学)は言う。

ファスナーの塗料が簡単に剝げ落ちないのは素晴らしいことだが、化学物質が簡単に分解せず体内に入れば、健康に悪影響が及びかねない。

実際、米環境保護局(EPA)は、飲料水中の6種類のPFASについて法的強制力のある基準値を定めることを提案している(PFASは水に含まれている場合もあるのだ)。産業界でも、PFAS不使用を約束する企業が現れている。消費者も直ちに、生活の「脱PFAS化」に乗り出すべきなのだろうか。

PFASが健康に及ぼす影響を心配するのは無理もない。しかし恐ろしい結果は、ほとんどの場合、大量のPFASを体内に取り込んで初めて生じる。たった1つのファスナーで健康が害されることはないが、大量のPFASに囲まれて生活していれば、ことによると悪い結果が生じる可能性もある。

過剰反応は必要ないが

PFASが存在するのは、日用品の中だけではない。工場から排出されるPFASは、空気、土壌、河川や湖沼、地下水、農作物を汚染する。軍の基地や飛行場で用いられる泡消火剤にも、大量のPFASが含まれている。農場の下水汚泥も汚染されている可能性がある。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中