発癌性も指摘される化学物質「PFAS」の正しい怖がり方...生活者が意識すべきこととは?
Avoiding “Forever Chemicals”
ファスナーやフライパン、レインコートなどにも使用されている ANNE NYGARD ON UNSPLASHーSLATE
<身の回りの日用品や水道水にも含まれているPFAS。発癌性も指摘される「永遠の化学物質」にどう向き合う?>
一部の自社製品で使用している塗料に「PFAS(ピーファス)」と呼ばれる化学物質が含まれていたとして、ファスナー最大手の日本企業YKKが取引先のアパレル企業などに注意喚起していたと、2023年10月にブルームバーグ・ニュースが報じた。
PFASが含まれている可能性のある製品のリストに、また新しい製品が加わった。このリストには、焦げ付きにくいフライパンに始まり、デンタルフロス、防水繊維、そしてオムツに至るまで、実に多くの製品が名を連ねている。
PFASを体内に取り込むと、さまざまな癌の発症、コレステロール値の上昇、肝臓へのダメージ、免疫反応の低下、赤ちゃんの出生時の体重低下など、数々の健康上の弊害があるとされている。
PFAS(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)は、1万6000以上ある有機フッ素化合物の総称だ。「大きな家系図にたくさんのメンバーが属しているようなもの」だと、米サイレント・スプリング研究所のローレル・シャイダー上級研究員は言う。
全てのPFASに共通する特徴は、炭素とフッ素が強力に結合していることだ。この性質により、日用品に用いると、焦げ付きにくい、汚れが付きにくい、撥水性が高いなど、有益な点が多い。
しかし、PFASは化学的安定性が高く、分解しにくい。「『永遠の化学物質』と呼ばれるのはそのためだ」と、ボストン大学公衆衛生大学院のウェンディ・ハイガーバーネイズ教授(環境衛生学)は言う。
ファスナーの塗料が簡単に剝げ落ちないのは素晴らしいことだが、化学物質が簡単に分解せず体内に入れば、健康に悪影響が及びかねない。
実際、米環境保護局(EPA)は、飲料水中の6種類のPFASについて法的強制力のある基準値を定めることを提案している(PFASは水に含まれている場合もあるのだ)。産業界でも、PFAS不使用を約束する企業が現れている。消費者も直ちに、生活の「脱PFAS化」に乗り出すべきなのだろうか。
PFASが健康に及ぼす影響を心配するのは無理もない。しかし恐ろしい結果は、ほとんどの場合、大量のPFASを体内に取り込んで初めて生じる。たった1つのファスナーで健康が害されることはないが、大量のPFASに囲まれて生活していれば、ことによると悪い結果が生じる可能性もある。
過剰反応は必要ないが
PFASが存在するのは、日用品の中だけではない。工場から排出されるPFASは、空気、土壌、河川や湖沼、地下水、農作物を汚染する。軍の基地や飛行場で用いられる泡消火剤にも、大量のPFASが含まれている。農場の下水汚泥も汚染されている可能性がある。