最新記事
中東

【独白】ヨルダン川西岸で激化する、イスラエル人入植者によるパレスチナ人への暴力行為...住民が語るその実態

“LEAVE OR DIE”

2023年12月5日(火)16時30分
アイマン・イスマイル(スレート誌記者)
ヨルダン川西岸でイスラエルの警察ともみ合うパレスチナの老人 MUSSA QAWASMAーREUTERS

ヨルダン川西岸でイスラエルの警察ともみ合うパレスチナの老人 MUSSA QAWASMAーREUTERS

<「私には未来が見えない。それでも自由主義世界の良心がこの状況を変え一筋の希望の光を見せてくれると信じ、どうにか私たちは生きている」イスラエルの人権擁護団体の職員は取材にこう語った>

パレスチナ自治区ガザ地区で戦闘が続くなか、ヨルダン川西岸ではイスラエル人入植者によるパレスチナ人への暴力行為が激しさを増している。イスラエルの人権擁護団体ブツェレムの職員で西岸に住むナセル・ナワジャにスレート誌記者のアイマン・イスマイルが取材し、実態を聞いた。以下はナワジャの話をイスマイルが書き起こし、編集したものだ。

◇ ◇ ◇


イスラエル人入植者はまるで兵士だ。パレスチナ人への襲撃作戦を遂行しようと、軍服姿で家々に夜襲をかける。白昼堂々と来ることもある。私たちを殴り、暴力行為が記録されないようにスマホを取り上げ、踏みつぶし、金品を奪う。そして最後には決まってこう脅す。「24時間以内に出ていかなければ撃ち殺す」

彼らは既に6つの村から、全住民を力ずくで退去させた。

私は生まれたときから西岸C地区のスシヤ村で暮らしている。パレスチナ人の小さな村だ。世界の目がガザに向いているのをいいことに、入植者たちはテロと暴力でC地区を支配し、土地を乗っ取ろうとしている。彼らは逮捕されるべき犯罪者だが、今では彼らが法律と化している。

3年前から暴力は日に日に増えてきた。入植地の近くで暮らしていれば、乱暴な連中の顔は分かる。4日前の夜、彼らは私の近所の家を襲い、男の住人4人を銃で脅して外に追い立てた。そして家の所有者の頭にM16自動小銃を突き付け、「死にたくなければ出ていけ」と恫喝した。

これほど恐ろしい思いをするのは初めてだ。イスラエルの警察に助けを求めたが、今は戦時だから何もできないとあしらわれた。戦争が起きてから増えたのは確かだが、暴力自体はイスラム組織ハマスがイスラエルに奇襲を仕掛けた10月7日の前から存在していた。

10月16日、1人の入植者がブルドーザーで私たちの村に押し入り、その様子をイスラエル軍の兵士たちはただ見ていた。以来、村は完全に包囲されている。水も医療も物資もなく、薬も手に入らない。入植者が道路を封鎖しテロ行為を行うので、子供は学校にも行けない。

彼らは道路を破壊し、オリーブ畑の木々を根こそぎにし、井戸とソーラーパネルを壊した。こうした狼藉を働く入植者をイスラエル軍は保護し、警察は見て見ぬふりをする。

パレスチナ人の命は軽いから、反撃どころか抗議すらできない。文句を言えば、その場で撃たれる。

農業
日本の技術で世界の干ばつ解決へ...ナガセヴィータの研究者に聞く「糖」の意外な活用法
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均2カ月ぶり4万円、日米ハト派織り込みが押し

ワールド

EU、防衛費の共同調達が優先課題=次期議長国ポーラ

ワールド

豪11月失業率は3.9%、予想外の低下で8カ月ぶり

ワールド

北朝鮮メディア、韓国大統領に「国民の怒り高まる」 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 5
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 6
    ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を…
  • 7
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 10
    統合失調症の姉と、姉を自宅に閉じ込めた両親の20年…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 6
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 7
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 8
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 9
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中