900キロを実際に走行 ...インドシナ半島の大動脈「南部経済回廊」から見たASEANの連結性強化
合意形成のシステム作りの重要性
ガバナンス・平和構築部ガバナンスグループ行財政・金融チームの根岸精一課長は、各国の国境に対する捉え方が異なる点について、経済成長が進むベトナムやタイでは、移民対策や密輸取締り対策が主眼となる一方、カンボジアは関税収入の確保に注力している面を垣間見ることができたと話します。「回廊として道はつながっているものの、利害関係や外交関係が複雑にからみあい、それぞれの国が別々の方向を向いている」との見方を示しました。
「そのため、この地域の連結性強化を目指すためには、国境を接する国々が集まり、通関を含む越境手続きの制度上の課題をお互いに認識した上で、関係者が一緒になってそれらの手続の改善に向けて議論・合意形成する仕組み作りが必要となります」と根岸課長。アフリカの回廊整備支援では、国境関係機関が集まる機会を定例化し、お互いの業務や手続きに関する理解を深めつつ、手続きやプロセスの調和化に向けて努力する取り組みをしていると言い、南部経済回廊においても「JICAが仲介役となり、この地域の貿易円滑化に向けてポジティブな効果を生み出せるよう取り組みたい」と意気込みます。
長年の協力の積み重ねを土台に、人と人との結び付きを強化
「カンボジア税関(関税・消費税総局)と今後の地域協力について協議した際、対応してくれたクン・ネム局長は、 10年以上前に、域内における税関のリスク管理に関するJICAの協力に携わっていた方でした。当時のことをよく覚えていて、その経験を生かし、今後もより良い連携をしていきたいという言葉をもらいました」
そう話すのは、東南アジア・大洋州部の渡辺大介次長です。JICAのこれまでの長年の協力で培ってきたネットワークを生かし、域内の人と人をつなげていくことでさらに成長に向けた知見が共有されていくと期待を込めます。すでに港湾分野では、アジア・大洋州における関連プロジェクトや研修の参加者を中心とした人材ネットワーク「港湾アルムナイ」が立ち上がっており、学び合いの場が形成されています。
また今回、南部経済回廊の沿線に進出する日系企業にも足を運んでヒアリングをする中で、民間企業との連携を進めるためにも大きなヒントを得たと言います。「現地での暮らしや働き方に触れて直接対話することで、アンケートやオンライン会議では知り得ない企業の本音が聞けました」(渡辺次長)
10年前にベトナムに駐在していた渡辺次長は今回、南部経済回廊を走り、改めてASEANの成長の勢いとパワーに圧倒されたと話します。「もはや経済力がある日本がすべてを支援する、という時代ではない」とし、民間企業をはじめ、他国とも連携し、この地域の各国や経済主体それぞれの長所や特徴が発揮されるよう、ファシリテーターとしての役割をJICAは求められていると語ります。