大学に「公式見解」は要らない...大学当局が「戦争に沈黙すべき」3つの理由とは?

A PROFESSOR’S WARNING

2023年11月15日(水)16時15分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

ただし、そこで大学がどのような立場を取ろうと、学長や学部長は、教員や学生、職員が公然と反論する権利を守らなければならない。

そして同じように、反ユダヤ主義やイスラム恐怖症、あるいは他の脅迫にさらされているコミュニティーのメンバーを、大学は擁護し保護しなければならない。

それが基本的な良識であり、脅迫めいた風潮は、大学の繁栄の基盤である開かれた意見交換を危うくするからだ。

さらに、ダイベストメント(投資撤退)など、理性的な人々の間でも意見が分かれるグレーな領域もある。大学が基金をどのように投資するかは、ある意味で集団的行為であり、政治的主張として解釈されがちだ。

70年代にはアパルトヘイト(人種隔離政策)下の南アフリカで活動している企業からのダイベストメントが問題になり、近年は化石燃料企業への投資が議論を招いている。

大学が取るべき行動については学内外で意見が分かれるだろうが、カルベン報告書の原則に忠実に従うということを理由に、教育機関としての適切な政治的スタンスに関する議論を終わらせてはならない。

私がこの問題に強くこだわるのは、重要な外交政策問題を含めて、大学は自由社会において極めて重要な役割を担っているからだ。

一流大学は基金のおかげで市場の圧力から遮断され、教員は終身在職権制度に守られている。このような状況で大学コミュニティーのメンバーは、志を同じくする寄付者や財団からの献金に依存するシンクタンクの専門家と違って、物議を醸す論争にも収益を気にすることなく参加できる。

民主主義社会において、即座に生計を失うことを恐れずに自分の考えを発言する力を、これほど堅固に保護できる機関はほかにない。

大学のこうした役割は、健全な公共政策にとっても不可欠である。いかなる政治的行動も、慎重な精査と理性的な反対意見を免れることは許されないからだ。

事前に自由な議論が行われれば聡明な政策決定ができ、王様は裸だと安全に指摘できれば誤りを正すことができる。

政治学者のジェームズ・C・スコットやノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センが述べているように、情報とアイデアの自由闊達な交換が行われることは、適切に機能する民主主義の秩序の大きな武器である。そして大学は、その知的なエコシステムにおいて中心的な役割を果たしている。

私が教えているような公共政策の大学院では特に、重要な政治問題に直接関与し、それらの問題に注力している政策立案者やステークホルダーとつながることは、大きな価値を持つ。

そして当然ながら、現代の問題に強く関わり、それらに取り組む努力を支援したいという寄付者が集まりやすい。こうしたつながりは、より広い世界にとっても明らかに有益だが、明らかな危険も2つある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中