NZ右派政権の誕生へ:対中外交の舞台裏と「疑惑」の新局面
Kiwi’s Pivot Right
総選挙に勝利し、次期首相に就任する国民党のクリストファー・ラクソン党首(写真中央右) DAVID ROWLANDーREUTERS
<与党・労働党が大敗を喫した結果、右派政党による連立政権誕生が濃厚となったが、中国への姿勢は驚くほどべったりだ>
ニュージーランドが近年、世界の脚光を浴びてきた大きな理由は、若くて進歩主義的なジャシンダ・アーダーン前首相のおかげだ。
2019年に南部の中心都市クライストチャーチのモスク(イスラム礼拝所)で銃乱射事件が起きたとき、アーダーンが示した深い思いやりや、コロナ禍の初期に取った断固たる措置は、傍若無人なドナルド・トランプ米大統領(当時)に辟易していた世界の左派を大いに喜ばせた。
だが、アーダーンは意外に右寄りなところがあった。とりわけそれが感じられたのは、中国との戦略的な競争関係と、英語圏5カ国の情報共有体制「ファイブアイズ」への参加姿勢だった。
そのアーダーンが国内政治に「疲れた」として辞任を表明したのは今年1月のこと。そしてこの10月に行われた総選挙で、アーダーンが属する与党・労働党は大敗を喫し、第1党に躍り出た国民党が右派連立政権を樹立する可能性が濃厚となっている。
これでニュージーランドは、タカ派的な外交政策を取るようになり、ファイブアイズとの協力も一層拡大すると期待するのは、まだ早い。なにしろ国民党は中国寄りで、ファイブアイズの他の構成国(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア)の保守派とは一線を画しているのだ。
国民党の重鎮であるジェリー・ブラウンリー元外相は、今回の選挙戦で、ニュージーランドは中国との貿易を守るべきだと訴えた。クリストファー・ラクソン党首も、中国の広域経済圏構想「一帯一路」関連の投資を「絶対的に」歓迎すると主張した。
10月14日の選挙では、左派でも緑の党やマオリ党、そしてアーダーン政権で外相を務めたウィンストン・ピーターズ率いるニュージーランド・ファースト党が議席を増やしたため、最終的に右派と左派は一定の均衡を保ちそうだ。
ただ、アメリカなどにとって懸念は残る。国民党は、中国に対抗することを念頭に置いた米英とオーストラリアの安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」に、ニュージーランドが参加することにも、消極的な姿勢を示してきたからだ。