アルツハイマー病、治療薬の次はワクチン 少なくとも7つの臨床試験が進行あるいは終了段階に
脳から有毒タンパク質を除去する画期的なアルツハイマー病の治療薬が登場したことで、同病のワクチン開発熱が復活している。写真はボストンの病院で、アルツハイマー病の症状を示す脳の画像を見る医師。3月撮影(2023年 ロイター/Brian Snyder)
脳から有毒タンパク質を除去する画期的なアルツハイマー病の治療薬が登場したことで、同病のワクチン開発熱が復活している。科学者と企業幹部10人へのインタビューによると、何百万人もの人々に安価で投与しやすいワクチンを提供できる可能性が出てきた。
米政府のデータベース「ClinicalTrials.gov」を調べたところ、少なくとも七つのアルツハイマー病ワクチンの臨床試験が進行、あるいは終了していることがわかった。
さらに多くの研究も進みそうだ。ワクチンは免疫システムを抑制し、同病に関連するタンパク質であるベータアミロイドとタウを除去する設計となっている。
アルツハイマーのワクチンを巡っては、20年以上前に最初の有望な開発が試みられたが、臨床試験を受けた有志のうち6%が命に関わる髄膜脳炎を発症したことで、中止された。現在の関心の高まりは、それ以来、初めての出来事だ。
研究者らはその後、より安全な方法として、高度に標的化された人工抗体を患者に注入し、体内の免疫構造を回避する方法に切り替えた。
エーザイとバイオジェンが新たに発売した「レケンビ」と、イーライリリーが現在、米国で承認審査中の「ドナネマブ」はこうした治療法であり、アミロイドの除去が早期のアルツハイマー病と闘う鍵であると、いう見解を確立させた。
これらの薬が成功するまでは、長年にわたる相次ぐ失敗によって多くの専門家が、アミロイド理論に疑念を抱いていた。
バクシニティ、ACイミューン、プロテナといった医薬品企業の科学者らは現在、最初のワクチンで何が問題だったかを理解したと確信し、過剰な炎症を招くことなく免疫反応を引き起こすと期待される注射の試験を行っている。
米食品医薬品局(FDA)は、最初の2つのワクチンをファストトラック(優先審査)の対象に定めた。
ボストンの医療組織、マス・ジェネラル・ブリガムのアルツハイマー病研究者、レイサ・スペリング博士は、同病の予防を研究する上でワクチンが重要な役割を果たすと考えている。「われわれが進むべき道はこれだ、と強く思っている」と話す。
スペリング氏は、アルツハイマーのタンパク質を脳に持ちながら認知機能が正常な人々を対象とした試験を率いている。血液中にアルツハイマー病たんぱく白を持つが、脳スキャンに記録されるほどではない無症状の人々を対象とした次の研究に向け、ワクチンを検討中だ。
アルツハイマーワクチンの開発はまだ初期段階にあり、有効性が示されるまでには、数年間にわたる大規模な臨床試験が必要となるだろう。
それでも、四半期に1度、あるいは年に2度投与するワクチンが登場すれば、アルツハイマー患者は月に2回点滴する高価なレケンビから解放されるだろう。世界中で推定3900万人に上る患者が、投与を受けやすくなる可能性がある。
米国立衛生研究所の神経疾患部門ディレクター、ウォルター・コロシェッツ博士は「世界中に広がり、さほど高くないものになる可能性がある」と期待を示した。