石油ショックは「今回はない」理由とは?...ただし「ハマスとの戦争」に終わる場合に限る
NO OIL SHOCK THIS TIME
AP/AFLO
<50年前の第4次中東戦争を彷彿とさせる事態だが、禁輸も価格高騰もないのはなぜか>
10月7日にパレスチナ自治区ガザのハマスが越境攻撃を仕掛け、こうなれば「戦争」だとイスラエルが宣言すると、週明けの国際市場で原油価格が急騰した。50年前の1973年10月6日に第4次中東戦争が始まったときも、世界の原油価格は翌年の1月にかけて4倍に跳ね上がった。アメリカがイスラエルへの経済的な支援を約束したからだ。
当時のアラブ石油輸出国機構(OAPEC)はアメリカとイギリス、カナダ、日本などへの石油輸出を停止した。今回も同じようなことが起こるだろうか。「歴史は繰り返さずとも韻を踏む」というが、答えはほぼ確実に「ノー」だと言える。
73年と今回の出来事の間には不気味な共通点がたくさんあるが、異なる点も多々ある。
■過去と今回の決定的な違い
73年のイスラエルはエジプトとシリアという2つの産油国を敵にした。そのイスラエルにアメリカが支援の手を伸べると、OAPECは石油の禁輸に踏み切った上、減産を繰り返して国際石油価格を押し上げた。
今回イスラエルが敵対するのは産油国ならぬハマスという組織だ。ハマスが支配するのはイスラエルとエジプトと地中海に囲まれた小さな地域にすぎない。ガザ地区にもイスラエルにも石油はほとんど出ない。
■【動画】世界が報じたオイルショックの日本(1973年) を見る
■価格高騰は短命
石油資源の豊富なイランが戦争に加担する可能性はある。ハマスによる奇襲計画を手助けしたという説も流布されている(イランの最高指導者アリ・ハメネイは関与を否定)。
一方で石油輸出国がハマス支持を打ち出して供給を削減する可能性もある。だが今現在、そうなると信じるに足る理由はない。原油価格にもさほどの動きは見られない。
昨年ロシアがウクライナに侵攻したときには、北海ブレントが1バレル=約95ドルから110ドルへと15%跳ね上がった。それまでロシアは世界3位の産油国として世界の供給量の約10%を生産していた。
今回は対照的に、北海ブレントは奇襲前の6日の金曜の終値が約84ドル。週明けの9日の月曜には88ドルまで上昇したが、すぐ86ドルに戻した。9月の高値94ドルよりもずっと低い。
■値上がりした理由
石油の値上がりは供給不足によるとは限らない。需要の急増も役割を果たす。需要増は「予備的需要」と「投機的需要」に分類できる。
予備的需要とは、供給逼迫に備えて余分に備蓄するための需要だ。投機的需要とは、さらなる価格上昇で儲けようとする投資家の需要。いずれも価格を押し上げる。ただしどちらも、想定外の事態に至らない限り比較的に短期の影響で済む。今回、その影響は小規模にとどまっている。
■本当に高騰したら
原油価格が高騰した場合、筆者のいるオーストラリアのように経済が比較的に小規模で開放的な国は輸入価格の上昇という被害を受ける。
だが、仮に価格が高止まりしたとしても、現在までのような水準なら小さな影響しか及ぼさないと想定できる。今回の事態を受けての原油価格の上昇は約1日で終わったし、上昇率は5%に届かなかった。
仮に5%の上昇が続いても、私たちの試算ではオーストラリアのインフレ率は最大で0.3%上昇する程度だ。GDPは約1%低下し、実質為替レートは2%低下するかもしれない。
当然、オーストラリア準備銀行(中央銀行)は原油価格の推移を注視している。だが原油価格が安定し、あるいは今までほど不安定でなければ、中東の戦争を理由に政策金利を操作することはなさそうだ。
Jamie Cross, Assistant Professor of Econometrics & Statistics, Melbourne Business School
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.