最新記事
イスラエル・パレスチナ情勢

ハマスのイスラエル一斉攻撃......なぜ攻撃は始まった? 今後はどうなる?

2023年10月11日(水)17時00分
錦田愛子(慶応義塾大学教授)

今後に立ち込める暗雲

今回の攻撃に対して、イスラエル側からの非難では、ハマースを「イスラーム国」になぞらえる批判が聞かれ始めている。主戦場であったシリアやイラクでの勢力衰退に伴い、「イスラーム国」の名は長らく報道の場では聞かれなくなっていた。その中で、ネタニヤフ首相やエルサレム副市長などは、今回の攻撃を受けてハマースを「イスラーム国」になぞらえ、「世界がISを倒したようにわれわれもハマースを打倒する」と徹底的に反撃する姿勢を改めて示している。

アメリカ国防総省高官も、ハマースの攻撃について「ISに匹敵する」と非難しており、イスラエル版「対テロ戦争」の枠組みが今後、定着していくのかは注目される。その矛先は、イスラエルにとっての北部戦線、つまりレバノン国境から攻撃をしかけるヒズブッラーに対しても向けられるかもしれない。

また今回のパレスチナ武装勢力による攻撃を受けて、イスラエル国内でパレスチナ側との和平を望む左派がほぼ壊滅的な打撃を受けることは必須だろう。左派の多いキブツで、平和な時間を過ごしていた市民が多数襲われ、命を奪われたことは、イスラエル市民に大きな衝撃をもたらしたはずだ。近年のイスラエルの国内世論の中で、すでに風前の灯火であった左派勢力が衰退することは、今後の政治プロセスにおける対話による和平への希望を消し去ってしまう可能性が高い。パレスチナ側との対話による中東和平への道は、さらに遠ざかってしまうのではないか。

イスラエルが大規模地上軍を展開することは必至

今後の展開として、イスラエル側がいずれ大規模な地上軍を展開することは必至の流れといえよう。ガザ地区から攻撃を受けた後、イスラエル軍が報復をしなかった前例はなく、これだけの犠牲が出た後で泣き寝入りすることは、イスラエルの国民感情を納得させる上でもあり得ない。戦略上、人質の安全を確保するために一定程度の交渉には応じざるを得ないかもしれないが、そうして交渉に応じること自体、公表されれば右派を中心とするイスラエルの国内世論からは強い反発を受けると考えられる。

今回の襲撃の犠牲者の大半は非武装の市民であり、人質の扱いを含めてその非人道性は否定しがたいものがある。だがそれを理由に、さらに数百人、数千人の血が流されることもなんとか回避する必要がある。イスラエルとパレスチナの衝突は、今後も拡大が予想され、その展開は予断を許さないものといえる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中