最新記事
チュニジア

欧州で急増する移民...独裁国家の策略

2023年9月27日(水)12時20分
ノズモット・グバダモシ(ジャーナリスト)
ランペドゥーサ沖でイタリア沿岸警備隊に救助された移民(9月18日)

ランペドゥーサ沖でイタリア沿岸警備隊に救助された移民(9月18日) YARA NARDIーREUTERS

<EUと手を組むチェニジア、疑問が募るEUの行動とは?>

「作戦の標的は不満を抱く人の苦悩に付け込む密航業者だ」──チュニジア憲兵隊報道官は記者会見でそう語った。

チュニジア当局は9月16日、欧州を目指すアフリカ人移民の主要な密航拠点である東部の港湾都市スファクスで、新たな取り締まりに乗り出した。チュニジアのサイード大統領が指示した今回の作戦の背景には、同国からイタリア南部のランペドゥーサ島へ渡る移民が、記録的レベルで急増している現実がある。

人口約6000人の島には、9月中旬の数日間だけで移民8000人以上が到着。その大半は、政情不安が続くブルキナファソやマリ、政治的・経済的に不安定なコートジボワール、ギニア、チュニジアやエジプトの出身者だ。

イタリアには今年、既に移民約13万人が上陸している。昨年の同じ期間の2倍を超える人数だ。同国当局によると、そのうち7割がランペドゥーサ経由でやって来た。

EUとチュニジアは7月、移民対策を含む「覚書」に調印している。サイード政権は密航阻止やチュニジアから到着した不法移民送還の迅速化を約束し、計10億ユーロの経済・財政支援拠出を確約された。

今年2月、サイードは「不法移民の大群」が犯罪を生み、アラブ人中心のチュニジアの人種・民族構成を組み替える陰謀の一端を担っていると、国家安全保障会議で発言。それをきっかけに、国内にいるサハラ以南出身の黒人アフリカ人への攻撃が増加した。

9月16日の取り締まりでは、憲兵隊が移民の暮らす住宅に乗り込み、密航業者のボートを押収。複数のNGO(非政府組織)によれば、少なくとも2000人の黒人アフリカ人移民が対リビア・アルジェリア国境地帯の砂漠に追放された。

一方、EUは同じ週末、国境警備に協力し、チュニジア船舶17隻を捜索救助用に転換する支援を加速すると発表した。

だが、特にサイードのような独裁的指導者と取引すれば、それなりの結果が伴う。9月前半には、チュニジアにおける民主主義の後退を批判していた欧州議会議員らが、チュニジア入国を拒否された。

EU機関の活動について調査する欧州オンブズマンは9月13日、チュニジアとの「覚書」の疑問点を示し、欧州委員会に3カ月以内の返答を求めた。その1つが、EUの援助が人権侵害の資金にならない保証はあるかという点だ。

国境なき医師団は、チュニジアと合意したEUは移民の死や虐待の直接的な「加担者」になると非難。トルコやリビアと結んだ「破壊的合意」の再現だと指摘している。

展覧会
奈良国立博物館 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」   鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中