最新記事
韓国

韓国消費者の反応は?福島原発処理水の海洋放出に対する賛否は支持政党次第

2023年9月11日(月)17時55分
佐々木和義

また海洋放出に先立って、釜山の市民団体が原発処理水の海洋放出禁止を求める訴訟を提起したが、釜山地裁は8月17日、原告の請求を却下する判決を下している。

ロンドン条約と議定書に反すると共に民主党が主張

共に民主党は、処理水の海洋放出が廃棄物などの海洋投棄を禁じたロンドン条約とロンドン議定書に反しているとして、同条約と議定書に批准している88カ国・地域の首脳や政府に宛てた親書を送る計画を発表し、さらに「日本が22兆ベクレルのトリチウムを放出する」として国際海洋法裁判所への提訴を求めた。

一方、政府は「国民の健康と安全を最優先とし、国益の観点からこの問題を扱っている」と述べ、大統領室も「韓国はほぼ安全だと信じている」と反論。加えて「中国は朝鮮半島西側の黄海に年間200兆ベクレル以上のトリチウムを放出しており、韓国も190兆ベクレルを放出している。韓国が提訴すると笑いものになりかねない」と述べるなど国際原子力機関(IAEA)の基準に従った合理的な放出には反対しない立場を改めて強調した。

風評被害の中、水産物の消費に変動が

韓国では処理水の放出に伴う風評被害で、水産物の消費が減る懸念がもたれている。大統領室は8月28日から1週間、庁舎内の食堂で海鮮中心のメニューを提供した。また31日には水産物の消費を促す予算として800億ウォン(約88億円)の予備費を計上し、大統領自ら水産市場を訪問して秘書室長らと刺身などを食べ、水産物を購入するなど水産業者を激励した。

処理水の放出がはじまった8月24日、あるスーパーでは水産物の売上高が前年同日と比べて約35%増加したという。保存が効く干し類は2.3倍、海藻の乾物は2倍増加した。他のスーパーも同様で、海産物の乾物が40%増えた店もある。一時的な買い溜めと考えられたが、水産物の消費が落ち込む気配はない。大手スーパー3社の24日から29日の水産物の売上高は対前週比103%と横ばいで、水産物関連外食店の売上も3.8%の減少にとどまった。ソウル最大の水産市場・鷺梁津水産市場ではカード利用額が前週と比べて48.6%多かった。

8月最終週には各地で水産祭りが開催され、主催者らは処理水放出の影響を心配したが、釜山で29日から始まった「第21回鳴旨市場コノシロまつり」では、準備したコノシロが1~2時間で完売。慶尚南道昌原市で25日に開幕された「第22回馬山魚市場まつり」でも1万5000人が来場し、普段の3倍を超える売上を達成した。

与野党の攻防が続くなか、大統領の肯定評価と否定評価、また与野党の支持率に変化はなく、処理水の海洋放出に対する賛否は支持政党次第というのが韓国世論の反応だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中