高級官僚のポストを「倍増」し、与党幹部の親族に「ばら撒き」...世襲大国カンボジアの罪
Cambodia’s Elite Inflation
とめどなく増えるポスト
当然のことながら、このCPPを核とする権力ネットワークは選挙のたびに肥大せざるを得ない。
政府高官の地位に一旦就けば、政権に忠実である限り、まず追放されることはない。一方で、新人を受け入れるために新しいポストが設けられる。現職は昇進ないし横滑りするのみだから、その数はどんどん増えていく。
それにしても、今回の高級官僚インフレの規模は異例と言うしかない。そこには父から子への権力継承を円滑に進めるための入念な準備があったとみるべきだろう。
カンボJAによると、官僚インフレが特に顕著なのは内務省だ。前政権では22人だった次官・次官補が、今回は104人に増えた。また国防省でも、38人だった次官級が86人に増えた。
増員の理由は明かされていないが、実を言うと両省のトップは以前から、首相職の世襲に批判的だと指摘されてきた。内務相のサル・ケンと、国防相のティア・バン。共にフン・センの長きにわたる盟友である。
もちろん真相は闇の中だ。CPPの党内政治に関しては事実と噂の区別がつかない。しかし、フン・センの狙いどおり息子を後継者に据えるためには、長年にわたって彼の統治を支えてきた政界有力者や治安組織の賛同が必要だったことは明らかだ。そのためには有力者を金と名誉で釣る必要があった。
結果として、内務省でも国防省でも首相府と同じ世代交代が行われた。サル・ケンとティア・バンは退任し、それぞれの息子(サル・ソカとティア・セイハ)が後を継いだ。これで実質的に内務省はサル家の、国防省はティア家の私物となった。
それで次官・次官補級のポストが激増した。退任した2人の親族や手下を追い出すわけにはいかず、新任の2人の親族や仲間には新たな席を用意しなければならない。かくして政府は肥大化する。それはフン・センが首相職を息子に渡すに当たり、支持を確保するために支払わねばならぬ代償だったと言える。
これら全てが、フン・セン政権下で発展してきたカンボジアの独特な政治システムと、その今後の展開について重要なことを物語っている。
新政権の次官・次官補級1422人のうち、その地位にふさわしい具体的職務をこなしてきた人物は皆無に等しい。しかし全員がその地位を利用して稼ぎ、親類縁者の暮らしを支え、自分を補佐し、あるいは自分の手足となる者たちのネットワークを維持する資金を必要としている。
少なくとも過去には、役人が昇進のために金を払い、昇進によって増えた稼ぎの一部を「上の者」に献上するしきたりがあった。