極右リバタリアンの皮をかぶったポピュリスト...アルゼンチン大統領選ミレイ候補、ダントツの強さの訳
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通貨のドル化など過激な公約を掲げて予備選を制したミレイ ERICA CANEPAーBLOOMBERG/GETTY IMAGES
<通貨ペソを廃止してドルに変える、中央銀行を文字通り「破壊する」など、過激な主張で支持者の熱狂を呼び起こすハビエル・ミレイ候補とは>
心理学者によれば、「確証バイアス」は脳が人間に仕掛ける最もありふれたいたずらの1つだ。私たちは信じたいことを信じ続けるために、知らず知らずのうちに事実をねじ曲げてしまう。8月にアルゼンチンの大統領予備選で首位に立った極右のハビエル・ミレイ候補(52)についても、多くの識者がこの確証バイアスに影響されている。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は予備選の結果について「労働の成果を奪う現体制を、中産階級が拒否したのかもしれない」と書き、ミレイが掲げる「市場開放、公共支出の削減、資本規制の廃止、国有企業の民営化」を称賛した。
そううまくはいかないだろう。アルゼンチンで起きているのは自由市場を求める草の根の運動ではなく、近年の中南米諸国が得意とする体制打倒の動きだ。コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領もチリのガブリエル・ボリッチ大統領も、「寡頭政治」や「権力の座に居座る者」を痛罵することで政権を取った。「やつらを退場させる」と誓い、「ケツに蹴りを入れて」「支配層」を追い払うと豪語するミレイも同類だ。
ミレイは経済学者でしばしば自由意思論者(リバタリアン)と評されるが、それは違う。リバタリアンは選択の権利を重んじるが、彼は人工妊娠中絶や性教育にも反対している。またミレイが長年顧問を務めたアントニオ・ブシ将軍は、悪名高い軍事独裁政権下でトゥクマン州知事を務めた人物。ミレイは典型的な権威主義のポピュリストであり、右派に与しているのはたまたま与党が左派だからだ。
地味で静かな男が体制打倒をぶち上げることはまずない。また水色のスーツ姿で選挙カーから現金をばらまいたカルロス・サウル・メネム元大統領をはじめ、アルゼンチンの政治家は派手なパフォーマンスで知られる。しかしそんな国でもミレイは規格外だ。中央銀行を廃止し通貨をペソからドルに変えると公約。中央銀行を廃止するどころか、実際に「たたき壊し」てみせた。
彼が知名度を上げたのは、テレビに出演し中央銀行の模型を棒でたたき壊したのがきっかけだった。別の番組では「こんなクソはいらない!」とわめきながら、中央銀行と書かれた大きな黄色い風船を割った。注目されるのは破壊行為であって、その対象ではない。ミレイが壊したのが国会議事堂の模型でも、支持者は熱狂しただろう。