タイ、大連立で22日にも新首相選出へ タクシン元首相が帰国、政界に大転換点
公約破りのタイ貢献党への批判も
プラユット政権という親軍勢力との決別を公約に掲げていたタイ貢献党だけに、今回の「旧勢力との提携」には同党に投票した有権者からの反発が予想されるなど、なおタイ政局は予断を許さない状況となっている。
タイ貢献党の支持者はタクシン元首相を支持しているが、同時に反プラユット政権を掲げた民主化への期待を投票に込めており、それを反故にするような今回の連立は「首相ポスト欲しさ」の政治的妥協として批判を浴びることは必至の状況ともなっている。
さらに総選挙で第1党に躍進した前進党に投票した支持者からは「第1党の政党党首が首相に選ばれない」ことへの不満を背景にした抗議活動も活発化するなど、新首相が誕生しても有権者の間の不満は残り、社会不安が高まる懸念も出ている。
タクシン元首相帰国へ 恩赦を期待
新首相にタイ貢献党の候補者セター氏が選出され、同党を中軸とする新政権が樹立された場合、同党支持者から熱烈な支援を受けているタクシン元首相の動向が焦点となっていたが、8月19日にタクシン元首相の次女がインスタグラムを更新。タクシン元首相が22日午前9時にバンコクのドンムアン空港に到着、帰国を果たす予定で「父を迎えに行く」ことを明らかにした。
これは同日午後に国会で首相選出の投票が行われることを意識した帰国と見られる。
タクシン元首相は2008年以来海外に滞在中で、首相在任中の不正容疑で有罪判決を受けており、帰国すれば逮捕、収監される可能性が高いとして実質的な海外での「逃亡生活」を続けていた経緯がある。
ところがタイ貢献党の候補者が首相に選出され、同党を中軸とした新政権が実現する可能性が高まったことを受けて、仮に帰国後に逮捕されても新政権からの恩赦・釈放を期待していることは間違いない。
早くも閣僚ポストの密約か
タイ貢献党が与野党・新旧勢力の横断的連合を組織した背後では、新政権での閣僚ポストの各政党への割り振りが水面下で行われているとの報道もあり、ドロドロとした駆け引きが続いているとみられている。
一部の報道ではプラユット首相の新党UTNは新政権のエネルギー相ポスト獲得で動いているという。UTN関係者はタイ貢献党とはタイの持続的発展を可能にするために両党の協力態勢に関する協議は行っているものの「閣僚ポストの話しは出ていない」として、一連の報道を完全に否定した。
このようにさまざまな動きが加速しているが、いずれにしろタクシン元首相が帰国し、議会で新首相選出の投票が予定される22日はタイ政治にとって重要な1日となることは間違いないだろう。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など