「きらきら弁当」も実は「男らしさ」だった......世界一男性性の強い国日本で「デキる男」とは?
"よき母"を象徴する「きらきら弁当」も、「男性性」の特徴
「ものづくり」や「料理の盛り付け」に完璧さを求めるのが男性的文化の表現であるならば、幼稚園や小学校で求められる「きらきら弁当」は、どうなのだろう。
そもそも、「きらきら弁当」は子どもの興味をそそるような盛り付けがされているが、食事の一番の重要な要素である栄養価とは関係ない。子どもにもよるが、筆者の経験上、きらきら弁当は、期待したほど子どもには感謝はされず、それよりも自分のSNSに投稿して悦に浸っていたように思う。
米デューク大学で教鞭をとる文化人類学者のアン・アリソン教授は、凝ったお弁当を含む細々とした育児・家事を母親が一手に引き受けることで、日本社会は利益を得ていると1991年の文献「Japanese Mothers and Obentos: The Lunchbox as Ideological State Apparatus」で指摘している。
「きらきら弁当」や「手作り手提げバッグ」を始めとした細かく規定された持ち物の準備など、日本の育児や家事には多大な労働力が必要とされているから、母親はパートタイムを選んでしまう。その結果、日本の女性は安価な労働力の供給源になる。同時に、母親が育児と家事を引き受けるからこそ、父親が長時間労働に身を費やすことができ、企業にとっては都合がよい。日本という国は、母性労働から大きな利益を得ているのである。このアリソン教授の考察は1990年代のものだが、育児、家事、長時間労働をとりまく環境は現代でもあまり変わっていない。
ホフステードインサイツは"料理の盛り付けやものづくりに卓越性と完璧さを追求する"のも「男性性の高い文化」の特徴だと定義している(※3)。"よき母"を象徴する女性性の表現に見える「きらきら弁当」も、実は「男らしい社会」の表れなのかもしれない。
「デキる男」をググると出てくる男性像が衝撃だった
男性優位社会である日本で男性を責めるのは簡単だ。しかし、日本の男性もまた、"男らしくいる"プレッシャーに苦しんでいるのかもしれない。
そう感じたのは、8月20日、都内で開かれたイベント「小林美香とのトークセッション『広告における男性の描き方』」に参加してからだ。同イベントでは写真・ジェンダー表象研究者である小林美香氏が日本で「デキる男」とググって出てくる男性の表象について分析をしていた。(※4)
皆さんにもググっていただきたいのだが、出てくるのは日本人よりも、白人男性モデルが多い。ビジネススーツに颯爽と身を包んだハンサムな白人男性が高層タワーで仕事をする......これが日本の「デキる男」の代表的なイメージなのだ。
こういった非現実的な男性像があらゆるメディアを通して刷り込まれる日本の男性は、一体どんな気分になるのだろう。本人に自覚がなくても見えない圧になってはいないか。
女性よりも不幸で自殺率が高い日本の男性たち
日本は男性優位社会のはずだが、なぜか世界で唯一、男性の幸福度が女性よりも低い国である(※5)。また、2020年度の日本男性の寿命は81.49歳と女性の87.60歳より6年も短く(※6)、2022年における男性の自殺率も女性の2倍以上だ(※7)。
女性の目には下駄を履いているように見える日本人男性だが、本人の意思とは関係なしに履かされているこの下駄が、実は重すぎるのではないか。
だから、どれほどジェンダーギャップや女性差別が叫ばれようと、余裕のない男性の耳には届かないのだ。つまるところ、世界一男性性の強い国日本は、男女がお互いのつらさを思いやる精神的余裕をもてないほど、生きづらいのである。
【参考】
※1......日本の組織文化について考えるために「ホフステードの文化次元論」の「男性性指数」(マスキュリニティ)をまとめてみた ー板敷ヨシコ
※2......ホフステードの国民文化ーホフステードインサイツ
※3......COUNTRY COMPARISON TOOL ーHOFSTEDES INSIGHTS
※4......小林美香(こばやし・みか) 写真・ジェンダー表象研究。大学や各種学校で教鞭をとるほか、国内外の雑誌などへの寄稿や編集、翻訳などを手がける。展覧会や、ワークショップの企画や写真で制作活動を行う人を対象としてコンサルティングも行っている。
Twitter:@marebitoedition
Instagram:@mika__kobayashi
※5......なぜ日本男子は世界で唯一、女性より幸福度が低くなるのか? ーNewsweek日本版
※6......令和2年度都道府県別生命表の概況ー厚生労働省
※7......令和4年中における自殺の状況ー厚生労働省自殺対策推進室警察庁生活安全局生活安全企画課