景気回復は期待外れで不動産危機も...追い詰められた「中国経済」、なのに景気刺激策にも出られない訳
Economic Stalemate
しかし、そこにはもっと根本的な理由があるのではないか。最近の経済指標は、指導部にとって受け入れやすいというだけでなく、長期的な政治的利益に合致しているのだ。仮に中国経済が資本主義のメカニズムによって高成長に戻れば、「共産主義」を名乗る党の存在意義はますます疑わしくなるだろう。
中国の政治エリートは、「中所得国の罠」にはまることを懸念するより、国内の上位中流階級がますます拡大することに脅威を感じているようだ。個人や企業の富の創造に上限を設けることは、そうしなければ存在意義を失いかねない党の支配力を拡大する手段でもある。経済の拡大をせき止めることは、中国の政治経済システムの特徴であってバグではない。
確かに、中国指導部は経済の不振とそれに伴う社会不安に満足してはいない。ますます多くの若者や都市生活者が職を失い、キャリアや今後の人生に幻滅して、「躺平(タンピン)主義(諦め、寝転び主義)」が広がっている。現役世代の信頼を失うことが政治的正統性の危機に発展しかねないことを、指導部は知っている。
中国経済に関する不利な報道を抑圧
さらに、景気後退が中国政府に否定的な世論を招くことを懸念して、中国経済に関する不利な報道を抑圧しようとしている。国営メディアは投資家に積極的な話をするように働きかけ、騰訊(テンセント)の創業者、馬化騰(マー・ホアトン)などビジネス界の重鎮たちは政府の支援計画を公に支持することを要請されている。
ただし、経済不振に対する世論を恐れて当局が大規模な景気刺激策に踏み切るとは限らない。現金給付のような措置は、持続可能性と「闘争」を強調する習の経済ガバナンスの精神に反する。富の移転は政治的なパワーバランスを国民の側に傾けるかもしれず、習の国家主義思想に反する。
こうした政治的論理は、少なくとも短期的には、中国指導部が大規模な景気刺激策を打ち出すことを牽制するはずだ。もちろん、より長期的な展望は定かではない。いずれ政府が大規模な財政・金融刺激策を実施するとしても、それは積極的な政策の方向転換によるものではなく、大規模な経済危機や社会の不満の高まりによって強制される可能性が高い。